この質問に対して教育部次長は、第三者評価では確かに「常勤ではないため」との記載があった事実は認めたものの、こう説明をした。
「中央図書館は365日開館していて、朝の9時から夜の9時まで開館している。当然、その時間帯をすべて一館長が管理するということは不可能です。ですので、館長も交替制のローテーションを組んでいます。そのため、副館長、あるいは館長補佐ということで、何人かの責任者を配置することで補っています」
つまり、シフト制の交替勤務であることを「常勤ではない」と表現しただけとの論だが、この説明に納得できない山口議員は、続けてこう追及した。
「図書館長というのは、図書館法13条でその地位は明確にうたわれている。それに合致しているかどうかを検証したときに、中央図書館の職務としてであれば、地球の裏側へ行こうが、何日間空けてもかまわないと思います。しかし、彼(高橋館長)がやっている仕事は、(来年新築移転予定の)和歌山のツタヤ図書館の設立準備に奔走しているわけです。海老名市立中央図書館長が館長の職務以外に、全国にツタヤ図書館の仕事のために職場を空けるということは、16億1000万円もの高額な指定管理料に館長の給料も含まれていることを考えると、あってはならないと思います」
それに対し教育長は、こう回答した。
「とてもよくわかります。ただ現状のなかで、中央図書館の館長ということで、それをさまざまなところに広げていく。または指定管理もそうですが、和歌山のことは私は詳しくは知りませんけど。そういうなかで、そういう名前で、ある一企業の職員として行っているのではなくて、中央図書館の館長として、そこにパネリストとして行くことは僕は問題ないと思う」
だが、山口議員が問題にした5月23日開催の和歌山市主催シンポジウムに出席した海老名市立中央図書館の高橋館長は、「CCCデザイン部公共サービス企画カンパニー社長」の肩書で出席しており、「和歌山市にどっぷり浸かり始めて約1年になります」とも発言している。
海老名市民が納めた税金から高い給与をもらっている委託業者の責任者が、本業をさぼって他自治体へ営業活動に奔走しているわけだ。
山口議員は最後に、「教育委員会ならびに社会教育委員会で配られた資料を見ると、良いことばっかりしか書いていない」と、この件に関して教育委員会でもまともな議論が行われていないと指摘した。
教育委員会や社会教育委員会で配布された資料には、先に指摘した違反事項は一切報告されていない。その結果、5点満点中4.3点という高い評価を得て、社会教育委員会も教育委員会も問題なしとしている。
山口議員の指摘に対し、教育長は声を荒げてこう反論した。
「会議に出ている方々は、山口議員さんがご指摘いただいた過去のすべてのことは承知しております。でも、それに左右され、それだけで、『これで問題のある指定管理者やめます』としたら、いま喜んでおられる方とか楽しみにしている方、リニューアルオープンしてから来ていただいている方々は、どういう感情になるか。そういうものではないでしょう。全体として、私どもは見ているんです。(略)反対の意見の方々は絶対に我々に耳を傾け、それを真摯に受け止めなければ(ならない)。今の市立図書館で満足している方々の意見をちゃんと受け止めて相対のなかで判断すると、私は今後も指定管理を続けて、さらなる進化を遂げさせるのが市民のためだと思っています」
つまり、指定管理を続けるのが市民のためだ、という主張だ。今回の議会でも、海老名市は5年間実施した指定管理制度導入の功罪を総点検したとは到底言いがたく、何がなんでもツタヤ図書館を継続したいとしか思えない対応だった。
CCCへの委託継続は規定路線か
そこで気になるのは、来年3月に指定期間満了を迎えた後はどうなるのかである。来年度から5年間運営を任せる新しい指定管理者の募集が7月4日から始まったが、これには複数の会社が応募してコンペになるのだろうか。また、3年前に石井社長が「今後は、CCCと組むことはない」とメディアにコメントした通り、TRCは海老名市から撤退するか、もしくは自社単独で応募してCCCと競合するのだろうか。
そのへんの動きについて、ある図書館関係者は、こんな見解を示した。
「TRCが単独で中央図書館の指定管理に応募することは考えられません。当初、TRCはやり手の谷一文子会長を送り込んで、共同事業体の主導権を握ろうとしました。それが噴出したのは『クズ本騒動』の時です。その結果はCCCの勝利で、CCCは教育委員会・市を屈服させ、TRCに政治力の差を見せつけました。その状態のもとでTRCが応募しても、勝ち目はありません。また、共同事業体の継続も難しそうです。TRCがCCCに土下座をすれば可能かもしれませんが。TRCが何を選択するのか、正直わかりません。ろくでもない選択肢の中から、最善のものを選ぶしかないと思います」
だとしたら、場合によっては、TRCとの提携は解消され、CCC1社による単独管理になる可能性も浮上してくる。
7月4日に発表された市立図書館の指定管理者募集要綱には、以下のような記載がある。
「有馬図書館及び門沢橋コミセンの建物は、老朽化が進んでいることから、施設の改修(平成33年度にリニューアルオープンを予定)を行います。改修にあたり設計段階から指定管理者が持つノウハウ、アイデアを取り入れた改修とすることで、複合施設の利点を最大限活かすことのできる提案を求め、より効率的で効果的な運営を図り、多くの市民の利用に供する施設とする予定です」(『海老名市立図書館及び門沢橋コミュニティセンター指定管理者募集要項』より)
10月までに選定委員会での審査を経て指定管理者内定、12月議会で正式決定されるというスケジュールも発表された。
今後どうなるのかは、まだ先が見通せない状況ではあるが、募集要項で付属施設の「設計段階から指定管理者が持つノウハウ、アイデアを取り入れた改修」の提案を求めていることから、「空間提案」が得意なCCCに全館単独で指定管理させるシナリオがすでにできあがっているのではないかと指摘する向きもある。
ツタヤ図書館第1号の佐賀県武雄市は一足早く、今年3月で5年の指定期間満期を迎えた。同市の場合、指定管理の解除どころか4月からは、隣接地に約5億円もかけて新設した「こども図書館」も合わせた運営をCCCが一手に担っている。
世間を賑わした古本騒動等についての総括は何もないままに指定管理契約が更新されたわけだが、「こども図書館」効果のあった昨年度を除けば、来館者数は年々減少している。貸出利用者数、貸出冊数ともに4年連続で減少しているそのさまは、話題性が薄れていくにつれて寂れていく商業施設の末路を暗示しているかのようだ。
果たして、海老名市もその後を追うことになるのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)