12月11日の閣議後の会見で、河野太郎外相が記者の質問を4度にわたって「無視」したことが物議を醸した。いずれの質問もロシアとの平和条約締結交渉に関してのもの。アルゼンチンで行われたG20の際の日ロ首脳会談で、交渉の責任者は河野・ラブロフ両外相ということになった。そのラブロフ外相が交渉について「第2次世界大戦の結果を日本が認めることが最初の一歩」と7日の記者会見で発言したのだ。つまり、戦後、北方領土はロシア領となったことを認めろと迫っているわけで、記者からこれに対する河野の見解を問う質問が出るのは当然なのだが、河野氏は「次の質問どうぞ」と言って、いずれの質問も無視したのである。
「北方領土は日本固有の領土」というのが日本政府の従来の立場のはずだ。外相はこれまで通りそれを主張すればいいものを、2島返還に傾く安倍首相に気を遣ってか、ラブロフ外相との直接交渉を前に対決構図にしたくないのか、弱腰の姿勢を見せた。この背景を、自民党関係者は次のように解説する。
「どうやら菅官房長官が河野外相に『余計なことは言わないほうがいい』と忠告しているようなんです。菅長官は選挙区が同じ神奈川県の河野外相を以前からかわいがっていて、講演などで『総裁候補』と公言するほど。2人は今や“師弟関係”で、河野外相は菅長官になんでも指導を仰いでいる」
ならば、菅長官が河野氏に北方領土問題で「沈黙」させる理由は何か。
「2島先行返還への期待が高まっているが、実際はロシアの姿勢はそんな生やさしいものじゃない。期待倒れに終わる可能性があり、菅長官は河野氏を傷つけないようにしようとしているのではないか。菅長官は最近“ポスト安倍”への野心が出てきたといわれている。『面倒なことは安倍・プーチンのトップ交渉に委ね、河野氏はかかわるな』ということだ」(同)
「2島先行返還」や「2島プラスアルファ」論が大きく幅をきかせるようになったのは、もちろん安倍首相が前のめりになったことが大きいが、そのきっかけをつくったのは、新党大地の鈴木宗男代表だと見られる。「2島プラスアルファ」が持論の鈴木氏が安倍首相に「2島返還でレガシーがつくれる」と囁いたのだ、というわけだ。ちなみに鈴木氏はメディアに出演した際などにも、「平和条約を締結すれば、歯舞群島と色丹島は返ってくる」との主張を繰り返している。
「鈴木氏が世論の期待感をどんどん膨らませ、安倍首相がそれに乗っかっているから、本当に返ってくるかのようなムードが独り歩きしている」(外務省関係者)