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沖田臥竜コラム

「ヤクザが郵便局で1日バイトしただけで逮捕」の波紋……現役幹部が語る、事件の特殊性

文=沖田臥竜/作家
「ヤクザが郵便局で1日バイトしただけで逮捕」の波紋……現役幹部が語る、事件の特殊性の画像1写真はイメージ(© Fotolia)

 今年1月、反社会的勢力として認定されていることを隠し郵便局でバイトをしていたとして、六代目山口組系組員(60歳)が愛知県警に詐欺容疑で逮捕された。騙しとったとされる報酬は1日分のバイト料7850円。

 このニュースは結構な話題となり、ネット上では「ヤクザが真面目に働きたいと思っても逮捕されてしまうのか」「ヤクザもいよいよここまで追い込まれてしまったか」などの声も出るなか、現役のヤクザは今回の事件をどう見ているのか。ある二次団体幹部はこう指摘する。

「逮捕された組員は1日だけバイトし、辞める際にヤクザであることを自ら打ち明けたというではないか。これは特殊なケースで、当局の締め付けが厳しくなったとかいう以前の問題。真面目にバイトしていたというのであれば、身分を明かす必要などなかったはずだ」

 確かに、この事件では、身分を隠してバイトしていた組員の素性を当局がわざわざほじくり出して逮捕したわけではない。同組員がバイト開始にあたり「反社会的勢力ではない」と記された誓約書にサインした挙げ句に、自らの素性を明らかにしたのだ。郵便局という公共性の高い法人に対して、そんなことをしては摘発されて当然だというのが、この幹部の見方である。

「実際、今ではヤクザを名乗っては食うことすらできない。それだけ、法律や条例によってヤクザの生活はがんじがらめにされてしまっている。そんななかで、知り合いが経営する建築会社などで働いている組員も少なからずいる。ヤクザにだって家庭もあれば、組織に対する会費だってかかる。こちらの素性も理解してもらった上で働かせてもらえれば、融通だって利く。ただそれでも、仕事場の同僚や関係先の会社に、自分はヤクザだと言ったらアウト。もう雇ってはもらえない。会社にだって迷惑がかかるからな」(前出の幹部)

 筆者の現役時代にも、知人の会社で働いている組員は確かにいた。会社では稼業名などを使い、当番(組事務所での業務)も、会社が休みの日に組み込むように組から配慮がはかられたりしていた。仮にそういった組員が当番にあたっている際に、当局などの家宅捜索が入れば、裏口からそっと逃すような対策もとられていた。

食い扶持を確保できるヤクザとは?

 現在は特に組員として組織に登録すると、賃貸契約を結べない、銀行口座を開設できないなどの不利益は大きい。それゆえ、極力、組員として登録せず、一般社会にその存在が知られないよう表に出さないような対応がとられている組織も少なくないだろう。その上で、このように話す業界関係者もいる。

「ヤクザは見栄と張りの商売だ。たとえ建設現場で仕事していたとしても、ヤクザである以上、それはシノギといわねばならず、そんなシノギにおいて地下足袋を履いて働いていると周囲が知れば、組員が所属する組長に恥をかかすことにもなる。そういう意味でも、組員であることが周囲に漏れてはまずいんだ」

 要するに、ヤクザがヤクザらしかぬスタイルでカタギの会社で働いているのがバレては、同業者に「あそこの組長は組員を働かしている。カタギに頼り、生活すら面倒をみてやれないのか」という風評がたってしまうわけだ。

 ヤクザとは、昔から言われるように、本来は職業ではない。生き方である。そのため自分の食い扶持や会費などは、自分の才覚によって生み出してこなければならないのだ。それゆえ、ヤクザ社会とは見栄と張りの世界ということなのだろう。そして、この関係者は今回の事件について、このように付け加えた。

「年齢がいけばいくほど、見ず知らずの会社で働きにくいのは一般社会もヤクザの社会も同じ。だからこそ、それまでに培ってきた人間関係が大切になってくる。それを大事にしていれば、いざという時にこそっと働きやすい職場を用意してくれる人もいるし、日雇いのバイトならいくらでも紹介してくれる。仮にそういった環境で、まかり間違って組員であることを口外してしまったとしても、警察にチクられるところまではないだろう。それだけヤクザ社会が冷え切っているのだ。大なり小なりヤクザである以上、誰でも切羽詰まっている。そうしたなかで頼れるのは人脈。逮捕された組員が郵便局でバイトしたということを見ても、そうしたツテすらなかったのではないか」

 たとえば、これだけみかじめ料に対する取り締まりが強化されているにもかかわらず、現実には、いまだにそれらを支払っている飲食店は相当ある。法的にはあってはいけないことだが、その背景にある深い人脈や人間関係上、能動的に支払っているケースがあることも事実。ヤクザの経済活動を制限する法律がこれだけあっても、食い扶持を確保している者たちが多数いるということは、それを支える人々も一定数存在しているという現実もある。

 今回の郵便局の事件だけをもって、現在のヤクザの窮状や悲惨さを語るのは早計なのかもしれない。
(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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