強まる市長擁護の声
泉市長は明石市出身。県立明石西高校から東大教育学部へ進学し、NHKに就職。ディレクターも務めたが退職して司法試験に合格した。橋下徹前大阪市長は司法修習時代の同期。人権派弁護士として活動してきたが、03年に旧民主党の公認で衆院選に出馬し比例で当選、一期務めたが05年は落選した。11年に市長に立候補して当選し、2期目を務めていた。
エリート意識から市職員を馬鹿にしていたというよりは、生来が相当「短気」な性格のようだ。優秀で多くの改革を成し遂げて仕事も早い市長から見れば、旧態依然と決まったことだけをこなして禄を食んでいる職員にはイライラしたかもしれない。しかし辞任会見では「市職員が仕事をしていないような報道がありますが、市職員は必死に仕事をしています」と訴えた。暴言報道があった当初、9割が市長への批判だったが、市長批判は半減し、「職員が怠慢すぎる」などの批判が増え、市長擁護の声が強まっていた。
それにしても、2年も前の録音がなぜ今頃、表沙汰になったか。明らかに選挙である。明石市は11人が亡くなった01年の歩道橋事故で大きな批判を浴びるなか、03年から北口寛人氏(現県議)が市長を2期務めた。11年に無所属の泉氏は、北口氏の後任と目された自公推薦候補と一騎打ちになり、69票差で当選した。
今回、録音記録は密かにメディアに渡されていた。ある放送局の幹部は「メディアはみんな知っていた。公示になってしまうと選挙報道の公平性から録音のことを報道できなくなるので今のうち、という感じでしたね。まあ市長選に出馬を表明している北口陣営の思惑でしょうが」と振り返る。
泉氏は、所得制限なしで中学生以下の医療費や第2子以降の保育料を無料化する、離婚して元夫からの養育費が滞っている女性に対して市が立て替える、犯罪者から被害者へ払われていない賠償金を市が立て替える、など斬新な政策を次々と断行した。評価の高い政策は他の自治体からも勉強に訪れるほどだ。地方都市が軒並み凋落するなか、評判のよい明石市は人口が増えている。
「火をつけてこい」は褒められた言葉ではないが、相手もそこは冗談と受け止めてくれると思ったから発しているわけだ。関西ではこうした激しい会話は特段、不思議ではない。とはいえ昨今、冗談を真に受けて火をつけるような人もいかねない時代だ。
ちなみに問題となっていたビルはその後、交渉がまとまり今は何事もなかったかのように更地になり、道路拡幅を待つばかりになっている。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)