極端な例を出せば、閑静な住宅街にガスコンビナートが立地していたら、住民は常に事故の危険性に怯えなければならない。小中学校の隣にラブホテルや風俗店が進出するのは教育上よろしくない。オフィス街に牧場を開設すれば、家畜の糞や肥料から発せられる臭気でビジネスに影響が出る。そうした混在を避けるのが、用途地域の目的にある。実態に合わせた用途地域が定められなければ、住民の生活は著しい混乱を生じる。
近年、建築基準法の規制緩和で閑静な住宅街にもコンビニ出店が可能になった。これにより、来店客による騒音・振動問題をはじめ、店舗から排出される臭気、排気口や電気設備の騒音が不安視されている。また、コンビニが出店することで往来する自動車が増加し、その自動車のライトや店舗看板の照明等による光害も地域住民は悩まされるだろう。
「特別区には、それらを変更する権限がありません。東京都は東京都全体を管轄する立場にあるので、仮に区が都に陳情してもすぐには動いてくれないでしょう。都市開発においても、区が機動的に動けなくなるわけです。だから、都になったからといってメリットがあるとはいえないのです」(前出・杉並区職員)
都制度の弊害を解決するべく、東京23区で構成される特別区協議会は「特別区の廃止」を表明している。23区の一部には特別区廃止にそれほど積極的ではない区もあるが、特別区協議会は東京23区すべてが加盟している。つまり、「特別区の廃止」は東京23区の総意と見なすことができる。
大阪都構想は劇薬
また、維新の「府市が一体化することで成長する」という主張も必ずしも正しいとはいえない。昨今、地方自治体関係者の間で、「もっとも伸びている都市」と衆目一致しているのが福岡だ。その福岡は政令指定都市が2つ存在する。いわば、県知事・福岡市長・北九州市長と、それぞれトップが3人いる。なおかつ、福岡県知事と福岡市長は対立している。
統一地方選の福岡県知事選でも、福岡市長は対抗馬として出馬した新人候補への支持を表明。3選を目指した現職との対立が鮮明化した。それでも、福岡はすごい勢いで成長している。府と市、県と市の対立と都市の発展・成長に相関関係はない。
選挙直前、大阪府の府内総生産額が愛知県の県内総生産額に抜かれたという衝撃的なニュースも流れた。都道府県の総生産は為替や海外市況にも大きく左右されるので、大阪府と愛知県の総生産額が入れ替わることは大きな出来事として受け止める必要はない。しかし、東の東京、西の大阪という長らく固定化されていた概念はすでに崩れた。
東京都でさえ、足下から特別区を廃止する声が出ているのに、大阪は成長を名目にして「都」を目指そうと躍起になる。その間、愛知県や福岡県が急成長を遂げ、大阪の立場は揺らぐ。
大阪市を解体する大阪都構想は、まさに劇薬。本当に、大阪都は大阪を成長させられるだろうか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)