「教員のストライキで授業が行われない」「料金滞納で学生寮のガスが止まった」……驚きの事態が、次々と報道で明らかになった私立和歌山南陵高校(和歌山県日高川町)。9日には同校元硬式野球部の主将が、学園理事長から「お前バカだな」「どうせ頭悪いからテストの点数も悪いんだろ」などと40分にわたり罵倒され、体調不良を起こしたとして、同校を運営する学校法人南陵学園(静岡県菊川市)の理事長を相手取り、約560万円の損害賠償を求め、大阪地裁堺支部に提訴したことも明らかになった(9日付朝日新聞記事『「40分暴言、精神的苦痛」 野球部元主将が学園理事長らを提訴へ』)。
異常事態の背景には、経営難に直面する地方の学校法人の問題を凝縮したかのような歴史があるようだ。
教員への給与未払い・国補助金の保護者への未返還……
事の発端は5月11日の教職員のストライキ開始だった。同校の教職員約20人の4月分の給料が給料日に支払われなかったことがストの原因という。5月末日までに支払うはずだった5月分給与も遅配していた。和歌山県は今月1日、法人に対して早急に経営状況を改善するよう文書で指導し、法人側は「事業承継先を変更し、その寄付を受けて6月10日までに支払う」と応答したという。
同県企画部企画政策局文化学術課の担当者によると、「教職員によるストライキで授業が停止した事例は県内初」という。同校は昨年度、国が授業料を生徒保護者に変わって負担する「就学支援金制度」を受け、国から支援金を受け取っていたが、生徒から徴収した授業料の一部を返還していなかったことも発覚したのだという。同県は4月、同校を指導し、「その後、保護者に返還された」(同課担当者)と話した。
なお毎日新聞は今月9日、記事『寮のガス止められ、その時先生は……和歌山南陵高保護者が語る』を公開。教員ストライキによる授業停止、経営難に伴う学生寮のガス停止などに直面した生徒保護者へのインタビューを公開し、その危機的な実態を明らかにしている。
運営学校法人は20年にわたりトラブル続き
前述の硬式野球部元主将による提訴も含め、学校法人南陵学園の首をかしげる運営実態の背景には何があるのか。南陵学園の前身である「学校法人国際開洋学園」時代に取材経験のある全国紙記者は次のように説明する。
「まず国際開洋学園時代に住宅金融公庫、日本私立学校振興・共済事業団からの借金返済トラブルがありました。ちなみに同学園の設立者は元自民党衆議院議員の井脇ノブ子氏です。
国際開洋学園や、同法人が運営する菊川市の国際海洋高校(現・菊川南陵高校)では借金トラブルのほか、少子化に伴う生徒数の減少や経営難に起因する劣悪な学生寮の環境などについて2000年代に次々と報道されました」
2010年に井脇氏は理事長を退任。学園は翌年、静岡地方裁判所に対して民事再生手続き開始を申し立てた。
今回ストが発生した和歌山南陵高校は1990年、前述の国際海洋高校の姉妹校として設置された和歌山国際海洋高校がルーツ。現在の同校公式サイトに詳しい沿革は記載されていないが、各社報道によると学園の民事再生手続きなどにより一時休校し、16年に現校名に改称。再開校して現在に至るようだ。前述の記者は語る。
「民事再生手続き後、学生の生活環境は改善されたようですが、学園の厳しい経営状況は続いているようで、昨年4月に菊川南陵高校が休校し、在校生のうち20人が和歌山南陵高校に籍を移すことになったことを静岡放送が報じています。
井脇氏が理事長だった時代、菊川市の学校(旧・国際海洋高校)の学生寮では、ボイラーが壊れて冷水しか出ないシャワーなどが一部報道で取りざたされていました。トラブルが多すぎて、私もうまく整理できていません……。今回の報道はかれこれ20年以上続く同学園のトラブルの延長にあるのは間違いないと思います」