腐敗の元凶、巨大新聞2社の社長を引きずり下ろす~新聞業界のドン、勝負は株主総会
業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出された。
太郎丸嘉一は一呼吸置いて、答えた。
「『リバーサイドホテル』と『シスレー・タワー二番町』に出入りしよる四人を撮っちょる。探偵の張り込みは一週間前から始めよったが、その日に四人ともキャッチしよった」
「え、それじゃ、僕らが偶然が偶然を呼ぶ体験をした日ですね。あの日、探偵も張っていたということですね」
「そういうこっちゃ。お主らも不審な車をみよったはずなんじゃがな」
太郎丸はニンマリした。すると、吉須晃人が残念そうな顔をした。
「あの日は気付かなかったですよ。でも、その後に、散歩で村尾(倫郎)のマンションを見回ると、黒塗りのバンが止っているのに気付きました。多分、あの車が探偵の車だったんでしょう。ホテルの方も、先週の金曜日に深井(宣光)君が濃紺のバンに気付いています。そうだよな」
「後で思い返しておぼろげな記憶があると気付いただけですけどね」
「わしは探偵がどんな車を使っちょるか、知らん。じゃが、多分、君らの言いよる通りじゃろう。先週の月曜日からずっと張っちょるはずじゃからな」
「でも、出入りした別々の写真だけじゃ、不倫の証拠にはならないんじゃないんですか」
「写真には出入りの日付と時刻も入っちょる。二人が一緒に居ったと推定しよる証拠になるはずじゃ。それに、まだ、探偵は調査を続けよるから、そのうち、ツーショットも撮りよるかもしれんぞ。もう少し待てばええんじゃ」
「それじゃ、楽しみに待ちますが、いつごろに表沙汰にするつもりなんですか」
「ふむ。照準を置いちょるのは定時株主総会じゃ。役員の選出があるけんのう。12月決算のうちは3月下旬じゃが、大都と日亜は3月決算じゃから6月下旬じゃ。遅くとも、6月初めまでには『深層キャッチ』や『週刊真相』がスクープしよる必要があるんじゃ。5月中旬がベストじゃな。それで、お主らに協力を頼みよるんじゃよ」
「何をするんですか」
「東亜文芸社の野尻(安信)君の紹介で、わしは『深層キャッチ』と『週刊真相』の編集長二人に会っちょる。写真週刊誌の方がええんじゃないか、という感じじゃったが、取材は両方ともしよると言っちょる。その取材にお主らが応じよって欲しいんじゃ」
「でも、会長が話しているわけだし、写真も探偵を使って撮っているんでしょ。それに、これからもっといい写真を撮るつもりなんですよね。僕らの出番などないじゃないですか」
「そうはいかんのじゃ。わしも、松野(弥介)君と村尾君の不倫のことは知っちょるから、話しちょる。堕落の元凶は二人じゃが、週刊誌で記事にしよる以上、蔓延(はびこ)りよる腐敗の実態も明らかにせにゃならん。それは若いお主らの出番じゃ。わしは細かいことを知らんでのう」
「僕らだって、そんなに詳しく知らないです。深井君ともども“座敷牢”の身ですから」
「お主、そんなはずはないんじゃ。自分の会社のことは知っちょる。それを話せばええ」
太郎丸は破顔一笑して、吉須を睨み付けた。
二人の掛け合いを聞いていた深井が突然、口を開いた。