大地震の直後でも接待ゴルフに興じる巨大新聞社社長~不倫暴露で追放できるか?
太郎丸と吉須の間が剣呑な雰囲気になりそうな気配を察知した深井が吉須を遮った。その時、「すげの」1階の玄関の硝子戸が開く音がした。太郎丸が呼んでいた『週刊真相』と『深層キャッチ』の編集長と記者が到着したのである。
「会長、来ましたよ。もう議論は打ち切りにして、どう対応するのか、確認しましょう」
太郎丸が頷くのをみて、深井が続けた。
「僕らは自分たちのところのスキャンダルを説明すればいいんですね。例の“差出人不明の手紙”の付属資料も渡していいですね」
「それで構わん。週刊誌の連中には『匿名を条件に一回限り取材に応じる』と釘を刺しちょる。名刺は渡さんでもええぞ。それにじゃな、お主ら以外にも、大都、日亜の現役かOBに数人取材しよる約束になっちょる。お主らがネタ元じゃとばれよる心配ないんじゃ」
「わかりました。それじゃ、吉須さん、下に降りましょう」
深井は吉須を促すと、立ち上がろうとした。
「待ちょれ。若女将が迎えに来よる。もう少し、今後の段取りを話さにゃいかんじゃろ」
太郎丸は立ち上がろうとする深井を制した。そして、吉須に向いて話し出した。
「とにかく、連中の取材は今日限りじゃ。じゃけんのう、奴らの聞きよることは何でも答えちゃってくれや。頼むぞ。『匿名』の条件は絶対じゃからな」
「ちゃんと対応しますよ。深井君は知りませんけど、僕は匿名であろうが、なかろうが、どっちでも構わないんです。大体、“手紙”の付属資料に網羅されているし、うちのスキャンダルや不祥事は日亜社内じゃ、知らない奴なんてあまりいないんですから…」
「まあ、吉須君、お主があまり気が進まん気持ちじゃとはわかっちょる。じゃが、わしは村尾君については秘書の杉田君との不倫の話もしちょってもらいたいんじゃわ。この話は付属資料にも載っちょらんじゃろ」
「え、あの“手紙”、会長の差し金だったんですか」
突然、深井が嘴を挟んだ。
「深井君、その話はあと回しじゃ。今、わしは吉須君と話しちょる。吉須君、話してくれよるな」
「別に話すのは構いませんよ。でも、会長が何も言わないのは卑怯な気がしますけど…」
「心配せんでええわ。わしはもう話しちょる。二股の写真をねらっちょるんじゃけんな。この手の話はじゃな、いろんな奴が話す方がええんじゃ。仮に写真が駄目でも、噂の信ぴょう性が増すんじゃ。この話はな、深井君も頼むぞ。杉田君はジャナ研の同僚じゃからな」
太郎丸は大笑いして、今度は深井の顔を覗き込んだ。
「ええ、僕も話しましょう。二股不倫の話を舞ちゃんから聞いたのは僕ですから。でも、本当にもっといい写真は撮れるんですか。やっぱり、写真がカギと思うんですけど…」
「それは運を天に任せよるほかないわな。何べんも言うちょるが、わしは仮に撮れんでも今の写真で、追放できよると思っちょる」
「そうかな。僕は端から難しいと思いますけど…」