巨大新聞社社長の不倫、写真週刊誌でついに暴露! ~各新聞社は塗りつぶして隠蔽
記事部分は両社の編集局長、北川常夫(大都)と小山成雄(日亜)二人の過去の不倫スキャンダルは取り上げていたが、村尾の“二股不倫”への言及はなかった。当事者への直撃取材によるコメントもなかった。
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松野が険しい顔つきで、大都社長室に出勤したのは5月30日午前9時半だった。その日は終日雨降りで、社長室の窓の外は白く靄っていた。社長室はカラオケ練習室みたいなもので、いつも松野が窓の外をみるようなことはなく、当然、白く靄った外の景色など目に入るはずもなかった。もちろん、会議用テーブルに並べられた朝刊に目をやることはなく、デスクに着き、後に従って部屋に入った秘書部長の杉本基弘を睨み付けた。
「どうするか、決まっているんだろうな」
「北川さんとはどうするかおおよそ決めていますが、社長の意向を確認するのが先決ですので、どうしたいのか、話して頂けませんか」
「俺は読んでいないから、どんな内容か、君がかいつまんで説明してくれ」
「え、ご覧いただいていないんですか。土曜日の夜にご自宅にファクスした時、読んでおくとおっしゃっていました」
「確かにそう言ったが、字も小さいし、読む気にもならなかった。大体、先週金曜日(27日)の夕方に君は『大したことはないので、ご心配なく』と言っていたじゃないか」
「申し訳ありません。社長が接待の宴席に出た直後に広告局の方から、今日の朝刊に出稿される『深層キャッチ』の広告原稿のことで相談があり、どうやら、社長とうちの女性社員との不倫が取り上げられているらしいとわかったんです」
「じゃあ、なぜ、連絡してこなかったんだ?」
「北川さんとも相談して、記事の中身まではわからないので、折角、カラオケに興じている社長を不愉快にさせるのもどうか、ということになりまして…」
「向こうの質問書への回答期限は木曜日(26日)の午後だったろう。それにも、俺の不倫の質問があると言っていたじゃないか」
「そうなんですけど、かなり厳しい調子の回答を送ったので、大した記事にはならないだろう、と思っていたんです」
「それでもな、どんな記事が載るのか、事前にわからなきゃ、君らの存在意義がないぞ」
「そう言われれば、ぐーの音も出ません。ゲラの入手も不可能ではありませんでしたが、藪蛇になるのはまずいんで、社会部や広告局を総動員しなかったんです。それで、結局、ゲラを入手しないまま、うちへの広告原稿で、初めて想像がついたんです」
「ふむ。君らは何の役にも立たんということだな……」
かしこまって、松野の叱責に応じていた杉本は会議用テーブルに並べてある朝刊の中から、大都、国民両新聞を取り上げ、デスクに持ってきた。
「ご覧いただければわかりますが、国民朝刊の『スクープ撮<大都・日亜トップの不倫現場>』とある見出しの『大都・日亜トップの』の部分をうちは白塗りにしています。発行元の東亜文芸社と交渉して白塗りで決着したのが土曜日の夕方でした。その後に、発売前の雑誌が手に入ったので、ご自宅に記事をファクスしたんです」
「大都と国民の広告のことはわかった。だがな、日亜の村尾の不倫写真も載せているんじゃないか。日亜の朝刊の広告はどうなっているんだ。日亜の広告も見せてみろ」
杉本は最初、ためらっていたが、意を決したように、テーブルの上から日亜の朝刊を持ってきて『深層キャッチ』の広告が載っているページを開いてみせた。
「なんだ。日亜には記事の見出しが全部、黒塗りになっているじゃないか」
杉本が答えに窮した時、編集局長の北川が原稿用紙を手に部屋に入ってきた。
「社長、お待たせして申し訳ありませんでした。明日の朝刊に載せる原稿を作っていました。今、見て頂いて対応したいと思います」
「そんな原稿どうでもいい。この数日、何していたんだ!」
松野の剣幕に、杉本の脇に進んだ北川は目が点になったような感じで、立ちすくんだ。