巨大新聞社社長の不倫、写真週刊誌でついに暴露！ ～各新聞社は塗りつぶして隠蔽

「北川さん、今、私が日亜朝刊の広告を見せたところです。社長はなぜ『うちも見出し全部を潰さなかったのか』とお怒りなんです。私の判断が甘かったんです」

　杉本が状況を説明すると、北川は少し落ち着き、松野の説得を始めた。

「ああ、その件ですか。うちの広告の方がいいですよ。日亜は『深層キャッチ』の報道自体を抹殺してしまいましたが、うちは抹殺していません。個人のプライバシーや名誉を毀損する恐れのある文言を白塗りにしただけです。杉本君の対応は間違っていません」
「ジャーナリズムの最後の一線を守ったとでも言いたいのか。そんな問題じゃないぞ。俺が怒っているのはな、どんな記事が載るのか、全く知らずに対応したからだ」
「社長、お言葉ですが、相手の質問書には僕の過去のスキャンダルのことも入っていました。いくら、僕が編集局長でも社会部を動員してゲラを入手するように指示できませんでした。それをやるには質問書くらいは記者たちにみせるしかないでしょう。僕だけならやりますが、社長もお困りになるんじゃないですか」

　松野は北川の反論に目を剥いたが、言葉が出なかった。その様子を見て、北川が続けた。

「日亜は記事自体を抹殺しているので、明日の朝刊に記事を載せにくいですが、うちは堂々と載せられます。その原案を作っていたんです」

　北川はデスクに自分の作った原稿を広げた。原稿には次のようなことが書かれていた。

「大都新聞社は30日、写真週刊誌『深層キャッチ』に対し、同誌6月13日号が掲載した『大新聞の腐敗を暴く！』という記事で、本社役員・社員について虚偽の事実を摘示、名誉棄損しており、1週間以内に訂正記事の掲載を求める文書を内容証明郵便で送付した。本社広報室は≪『深層キャッチ』側が誠実に対応しない時は法的措置を検討します≫とコメントしている」
「ふむ。この原稿を明日（5月31日付）の朝刊に載せるのか。……だが、日亜だって同じような反駁記事は載せられるだろう？」
「はあ、載せることはできます。でも、それは“寝た子を起こす”ようなものです。日亜しか購読していない読者は『深層キャッチ』6月13日号がどんな記事を載せたのかわからないわけですから。わざわざ、広告を黒塗りにした意味がなくなってしまいます」
「…ふむ。そういうことか」
「相手の出方次第で訴訟を起こす以上、『深層キャッチ』の記事が事実無根だと読者に周知徹底しなければなりません。日亜がどうするのか、知りませんが、うちが広告の一部だけ白塗りにしたのは正解なんです」
「北川君の言い分はわかった。広告の件はもういい。ならば、訴訟の方はどうなんだ？『深層キャッチ』は謝罪も訂正もしないだろう。準備は始めているんだろうな。杉本君」

　松野は北川の脇で俯いていた杉本に目を向けた。

（文=大塚将司／作家・経済評論家）

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫（大都）、小山成雄（日亜）に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週4月4日（金）掲載予定です。