巨大新聞2社経営陣追放計画は空振りか!? 不倫暴露記事に対して「名誉毀損」で対抗
業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていたが、もう一人の首席研究員、吉須晃人とともに、新聞業界のドン太郎丸嘉一から呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。しかし、その計画を実行に移す直前に東日本大震災が起こった。震災から2カ月を経て、太郎丸が計画を実行に移した。
大都の北川常夫、日亜の小山成雄の二人が昼食を取ったのは品川駅前の高層ホテルのレストランの個室だった。2月28日に経済情報の新媒体についての構想をまとめるように指示を受け、3回、二人で意見交換したところだった。大都、日亜両本社のある大手町界隈のホテルの方が便利だが、極秘で話し合いをするには少し離れたところがいいと思い、選んだ場所だった。
先に着いたのは北川だった。ほんの2、3分遅れで小山が部屋に案内された。
「もう3カ月近くたつんですね。確か、大地震の2日前でしたよね。あの時はこんな事態になるなんて想像もしていませんでした」
席に座った小山は個室を見回しながら呟いた。
「そうさ。3回目の打ち合わせは3月9日だった。前日の晩にうちの松野(弥介・大都社長)と村尾さんに“身体検査”されて、新媒体構想を早くまとめろとハッパをかけられたからな。でも、大地震で中断してしまったけど、そろそろ動き出した方がいいと思ってね」
「村尾(倫郎・日亜社長)から、少し落ち着いたら、検討を再開しろ、と言われていましたんで、僕も北川さんに声を掛けようかと思っていんですよ」
「君もそう言われていたのか。でも、新媒体の意見交換は来週あたりから週一のペースでやればいいんじゃないかと思っている。今日は久しぶりなんで、昼飯を食って、大地震以降のよもやま話でもしようぜ」
「わかっていますよ」と小山は意味深な含み笑いを浮かべ、続けた。
「『深層キャッチ』のことでしょ。びっくりしました。質問書はうちのことだけですから、大都さんも一緒に取り上げているとは広告原稿が入稿になるまで分からなかったんですよ。中身の方は土曜日夕方に雑誌を手に入れてようやくわかったという状況でした」
「うちも同じさ。奇しくも、合併の秘密を共有している四人のスキャンダルを書いているから、平仄を合わせておいた方がいいと思ってな。君のところはどうするんだい?」
「明日の朝刊に事実無根で謝罪を求める記事を掲載しますよ。北川さんも同じでしょ」
「それは同じだけど、日亜さんは今朝の広告の見出しを全部黒く塗りつぶしているだろう。“寝た子を起こす”ことにならないかね」