「僕も、北川さん同様に自信ないですね。まだ、大震災への対応もいろいろありますし、これから話し合う裁判のことも今日でおしまい、というわけにはいかないでしょう」
北川、小山の二人が平仄を合わせたようなやり取りを聞いていた松野が上から目線で容喙した。
「二人とも、そんなことはわかっているぞ。とにかく、年内に案を固める決意で、週1回くらいのペースで作業を始めてくれ。どっちにしろ、訴訟の関係で意見のすり合わせをしたり、意見交換したりしなきゃいかんだろう。好都合じゃないか。村尾君、どうかね」
「異存ありません。それで行きましょう」
村尾が頷くと、北川、小山も「わかりました」と口を揃え、顔を見合わせた。すると、満足げな表情の烏山が「よしゃ。それいいぞ。そろそろ、みんなでメシを食いながら、本題の訴訟の話を聞くが、その前に君らに話しておきたいことがある」と前置きして、ドン気取りで訓示を垂れ始めた。
「編集局長の二人は来年4月の合併に間に合うように全力を尽くせ。そうしないと、合併自体がずるずる先送りになる。わかったな」
北川、小山に念押しすると、今度は松野と村尾に向かって続けた。
「次は社長二人じゃ。貴様らは経営者じゃからな。編集局長二人と同じじゃ困るぞ。裁判の進展をみながら、いつのタイミングで新媒体を発刊し、合併するのがいいか、見極めにゃならんぞ。判決が確定せんうちに、合併を決めて、うちらの新媒体や『大都新聞』への題字統合などを大々的に発表するのがえのかどうか。ようく考えるこっちゃな。わかっとるな」
「相談役、それは心配無用です。訴訟を起こせば、勝ちも同然です。当事者が認めなければ不倫など立証できませんから」
胸を張る松野をみて、烏山が左手の親指を左右に振り、続けた。
「本当にこいつはノー天気な男じゃ。訴訟を起こせば、勝ちも同然なんちゅうことはわかっとる。わしらの仲間内で謀反を起こすようなのが出んとも限らんじゃろうが。それを考えろ、と言っとる」
「いや、相談役。ご指導有難うございます。とにかく、村尾君と連絡を密にして、内部の引き締めを徹底しますし、“不満分子”が出ないようにタイミングは十分に考えて打ち出しますよ。どっちにしろ、断トツの媒体を作って、国民新聞を蹴散らしますよ。ご安心ください」
「その調子のよさが心配なんじゃ。村尾君もしっかり頼むぞ。後輩だからと言って遠慮することはないぞ」
苦笑いを浮かべた烏山は村尾の目を覗き込むようにした。
「そんな、めっそうもないです。今度の経営統合の話は松野先輩の提案で始まったものです。先輩の判断はいつも的確で、終始、リードして頂きました。これからも変わらないと思いますので、そんな僭越なことはできませんし、その必要もないでしょう。…」