優秀な経営者は「普通ではない家庭」から生まれる 「経営の精神」を鍛える後継者教育を
1956年に清水實業(現ライフコーポレーション)を創業し、食品スーパーのライフを全国展開した清水信次にも、跡取りの候補として娘婿がいた。優秀な人物だったが、孫に良い父か否かを聞いたところ「家でよく遊んでくれるし、とても優しい」と答えた。その返答を聞き、清水は「これはだめだ。私生活を犠牲にしてまでがんばらなくてはならないスーパーのトップには向かない」と判断したのだった。人によって幸せの形は違う。「社長になり、経営をすることは大変だが楽しい」と心底思う人でないと、会社の経営はおかしくなる。何よりも、社長を信頼して働く従業員たちが不幸である。
もし、身内に後継者としてふさわしい人物がいたとしても、想定外のアクシデントが起こる場合もある。自動車メーカーのスズキのケースがその典型だ。
1920年に創業されたスズキでは、2代目以降、現在の会長兼社長の鈴木修に至るまで、歴代、娘婿がトップを務めてきた。鈴木修は「娘婿がこの会社をだめにした、と後ろ指をさされたくない一心で、これまで頑張ってきた」といい、その言葉通り、軽自動車大手から急成長中のインド四輪自動車市場でトップシェアを占め、欧州でも躍進する世界的な小型車メーカーへ脱皮させた。優秀な娘婿が成功に導いた実績が同社の歴史と言っても過言ではない。それだけに、次期社長も娘婿の小野浩孝取締役専務役員が就任するものと目されていたが、2007年12月12日、小野は膵臓がんのため52歳の若さで急逝した。
そのため、10年以上前から同社の後継者問題が注目されているが、鈴木は80歳を超えた今も「俺は中小企業の親父」と言い放ち、現場を回り檄を飛ばす強烈なリーダーシップを発揮し続けている。
スズキのようにアクシデントが生じた場合、選択肢が少ない世襲企業では致命傷になりかねない。アクシデントが起こってからドタバタするのでは遅すぎる。大株主である三菱商事から人材を引き入れて後継者を育てたライフのように、親族や社内にとどまらず、社外にも目を配り選択肢を広げておくことが後継者問題のリスクマネジメントになることだろう。少子高齢化が急激に進行している日本の現状を鑑みれば、なおさらそういえるのではないか。