食品卸独立系最大手の国分が、特定の総合商社と本格的に協業するのは初めて。しかもその相手が「食品流通の外野」(食品流通関係者)と呼ばれる丸紅だったからだ。関心はおのずと「丸紅は、どうやって国分を口説き落としたのか」に集まった。
両社の包括提携の骨子は、今年6月をめどに
(1)丸紅は国分が新たに設立する予定の首都圏国分(仮称)に出資する
(2)国分は丸紅子会社の菓子卸、山星屋と同冷凍食品卸、ナックスナカムラに出資する。ナックスナカムラと国分子会社のチルド食品・冷菓卸、国分フードクリエイト東京は業務提携する
(3)丸紅と国分は惣菜事業で業務提携すると共に、物流効率化・機能強化に向けて相互に協力する
というものだ。
国分は輸送費高騰、PB(自主企画)商品市場拡大、食品市場縮小の三重苦に喘ぎ、2013年度まで4期連続の経常減益を余儀なくされていた。一方、丸紅は13年3月、保有していたダイエー株約29%のうち約24%をイオンに売却、もともと手薄だった国内食品流通事業が先細り化していた。
こうした互いの危機感が、包括提携に向かわせたとみられている。
食品卸売業界で進む「2強多弱」化とは?
丸紅と国分が手を組んだ背景には、食品卸大手間の激しい生き残り競争がある。食品卸売業界では11年から13年にかけて、業界再編が一気に進んだ。11年7月には三菱商事が傘下の食品卸子会社4社を経営統合して三菱食品を設立。同年10月には伊藤忠商事が子会社の日本アクセスを軸に傘下の食品卸売事業会社を統合。同社は自社食品卸売部門を日本アクセスと伊藤忠食品の二頭立てに再編した。
そして、13年1月には旭食品(高知県)を中核にカナカン(石川県)、丸大堀内(青森県)の地域卸3社が広域連合を組むかたちで経営を統合。共同持ち株会社トモシアホールディングス(東京都)を設立している。
この一連の業界再編によって三菱食品は業界トップに躍り出て、日本アクセスが同2位に浮上した。その結果、業界で「不動のトップ」といわれた国分は業界3位に転落した(いずれも13年度売上高ランキング)。
さらに「昨年は上位2社と国分の差が拡大傾向を見せている。このままではコンビニエンスストア業界同様、食品卸売業界も『2強多弱』になる可能性がある」と食品流通関係者は指摘する。
なぜかというと、三菱商事は食品流通の川下にローソンを、伊藤忠は同じくファミリーマートを子会社に擁している。このため、ローソンへの食品卸は三菱食品が、ファミリーマートへの食品卸は日本アクセスが独占している。三井物産が2%弱出資するセブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカドーとセブン-イレブンをも日本アクセスが侵食し始めている。
またイオンの食品スーパー、マックスバリュ各社は、業界4位の加藤産業の牙城といわれてきた。だが、08年末に三菱商事がイオンの筆頭株主になって以来、三菱商事はマックスバリュ各社との関係も強め、「12年頃から三菱食品が加藤産業のシェアを食い荒らしている」(流通関係者)とささやかれている。
三菱食品と日本アクセスが勢力を急速に拡大する中、丸紅は「食糧の丸紅」といわれながらも「総合食品卸機能を持っていない弱み」(総合商社関係者)があだとなり、食品流通の川下で存在感を失いつつある。
ダイエーという唯一の川下を失った丸紅にとって、総合卸売機能獲得は緊急課題だった。そして、その橋渡し役が皮肉にもダイエーがらみだったのだ。
丸紅の国分獲得はケガの功名だった?
食品卸売業界では、かねてから「創業300年の独立経営を誇る国分が、もし総合商社と組むなら、その相手は三井物産だろう」とみられていた。
06年に国分は三井物産の要請を受けて三井食品と業務提携を締結。三井食品に人材を派遣、同社の経営改善を指導した経緯があった。また、翌年にはこれも三井物産の要請を受け、経営不振に陥っていた三井物産子会社の食品・酒類卸、北酒連を救済するかたちで同社株の約70%を取得、子会社化(現シュレン国分)した経緯もある。
そんな関係から、三井物産は11年頃国分に出資を打診したが、総合商社の経営関与を嫌う国分に断られている。以降「両社の関係は冷えたまま」(流通関係者)という。それを奇貨として「うちと提携しませんか」と単刀直入に国分の懐に飛び込んだのが丸紅だった。丸紅食品部門長の山崎康司氏が国分の國分晃副社長を秘かに訪ねたのは、昨年4月だったといわれている。
丸紅がダイエーを産業再生機構から買収した06年、山崎氏は商品グループ長としてダイエーに出向。同社との取引が多い国分の人脈を築いてきた。しかし、丸紅が保有していたダイエー株の大半をイオンに売却、ダイエーでのお役御免となって古巣の食料グループに戻った山崎氏に与えられた任務は、国内食品流通事業の立て直しだった。そのパートナーとして真っ先に頭に浮かんだのが、ダイエーで人脈を築いた国分だった。
国分にとっても「三菱商事、三井物産、伊藤忠に比べて、『ひさしを貸して母屋を乗っ取られる』脅威は低く、総合商社という優れた食品調達機能を持っている丸紅は、協業相手としては申し分がなかった」(国分関係者)。
かくして、包括提携に向けた両社合同の専任チームが発足。月数回の精力的な協議を重ね、包括提携の枠組みを練り上げていった。後がない丸紅は、国分との提携を成功させるために菓子卸最大手の山星屋と冷凍食品卸のナックスナカムラを国分に差し出す誠意まで示した。両社が国分の連結子会社になれば、売上高は単純合算で日本アクセスを抜き、国分は業界2位に浮上する見通しだからだ。
提携の相乗効果は未知数という見方も
丸紅が国分との包括提携で真っ先に攻めるのが首都圏市場だ。丸紅が出資を予定している首都圏国分は、成長の余地が大きい首都圏食品スーパーとの取引拡大が目的。また、丸紅が主導する、八社会(京王ストアなど丸紅出資の食品スーパー8社の共同企画商品開発会社)加盟の私鉄系食品スーパー10社と国分の取引を拡大させ、「これまで競合に明け渡してきた食品卸の取引シェア奪回も進める」(丸紅関係者)方針だ。
さらに3月2日、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東のイオン系3社の経営統合で誕生した、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスもターゲットにしている。同連合の共同持ち株会社はイオンの連結会社になるが、丸紅の関連会社にもなる予定。そしてマルエツとカスミは、もともと国分が取引シェアトップの関係だ。「国分は丸紅の協力で同連合のシェアを独占できる可能性がある」(証券アナリスト)
株式市場関係者の多くも「丸紅と国分の包括提携を『食品卸再編の第三極』」と位置付けるなど、期待する声が多い。
しかし、食品流通関係者は「丸紅と国分が本気で協業すれば、三菱商事や伊藤忠にとっては脅威になるが、丸紅・国分の相乗効果がどの程度のものかは現時点で不明。さらに丸紅は食品卸に限れば素人に近い。それが証拠に、ダイエー再建でも失敗した」と手厳しい評価を下す。
証券アナリストも「包括提携では、両社の力関係の明確化が重要になる。それが現時点では曖昧。これでは、丸紅が国分におんぶにだっこの提携になる可能性が高い」と指摘する。
激戦の食品卸売業界で、丸紅は存在感を高められるのか。今後の成り行きが注目される。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)