無人セルフ方式スタンドへの疑問点
では、隣接する商店などに危険物取扱者の資格を持った人がいれば、本当に無人でも営業を認めることに問題はないのだろうか。
疑問の1つは、無人セルフ方式を導入することで、ガソリンスタンドの減少に歯止めがかかるのかということだ。ガソリンスタンドの約7割が1事業者1給油所という現状を鑑みると、ガソリンスタンドを営む零細事業者は苦境に立たされ、廃業を余儀なくされていることがわかる。その背景には、人口減や過当競争の激化、スタンド経営者の高齢化に加え、低燃費車や軽自動車が増えたことによるガソリン需要の低下など、さまざまな要因がある。
さらに、無人セルフ方式には安全対策上の設備投資など、多額の初期コストがかかるため、多店舗展開している大手事業者の参入が零細事業者を追い詰めることになりかねない。
2つ目は、無人セルフ方式の導入が人口過疎地での運営を支援することになるのかということだ。資源エネルギー庁の調査によれば、日本では域内ガソリンスタンド数が3カ所以下の市町村が257存在し、全体の15%に上る。背景には、過疎化による需要の減退や消費者の低価格志向により、事業継続が困難な状況に置かれているガソリンスタンドの姿がある。そもそもセルフ方式の導入も過疎地域のスタンド維持が目的であったが、現実に設置されているは市街地ばかりであるため、また同じことが繰り返される可能性は否定できない。
3つ目は、安全と保安上に問題はないのだろうか。実は、98年の消防法改正以降も、セルフスタンドでの火災事故を問題視する声が上がっていた。前述の利用者に定められた危険物の取り扱い規制の中の「静電気対策に係る事項」は01年に追加されたもので、セルフ方式で給油中に自動車の給油口付近で静電気が原因と考えられる火災が発生したことが契機となっている。
消防庁危険物保安室によれば、給油所1万施設当たりの給油中における火災事故発生割合は、03年時点でフル方式の0.2件に対しセルフ方式は24件と、大きな開きがある。11年にはフル方式の0.7件に対し、セルフ方式は5.8件まで減少したが、それでもなお8倍もの開きがある。
しかし、火災事故の発生を減少させることができても、放火や釣り銭機盗難などの犯罪リスクに加え、「火災が起きたら誰が消火するのか」といった火災事故発生後の処置にも問題が残る。
セルフ方式のスタンドでも、くわえタバコをして給油する者や禁止されているポリタンクに入れて持ち帰る不心得者がいる。さらに、暴走族のたまり場と化したり、スタンドが落書きだらけになるなど保安上の問題も起きるだろう。
人口過疎地のガソリンスタンドを守るための手立てを考えるのは重要なことだが、その答えが無人化なのかは疑問である。スタンドがガソリンの自動販売機となることには慎重であるべきではないか。今後の検討内容を注視したい。
(文=千葉優子/ライター)