報じる1月11日付朝日新聞より
数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
「どうすれば景気が良くなるのか?」という問題について、前政権時代からいろいろと議論が尽きない割には進展はなかった。だが、アベノミクスが登場して円安が進行したとたん、株価が急上昇し、なんとなく景気が持ち直しそうな良いムードが漂い始めている。
なんでこのように景気が良い雰囲気になったのかを分析すると、2つ大きな要因がある。
ひとつは、安倍首相が自民党総裁に就任した直後に「輪転機をぐるぐる回して、無制限にお札を刷る」などと過激な発言をしたことに端を発する“政策的インフレ誘導”だ。最近ではインフレ率2%を確たるターゲットとすると明言し、次期日銀総裁はインフレターゲット政策に協力をする人物を選ぶ方針であるといわれている。
実際には輪転機をぐるぐる回すわけではないが、日本の中央銀行が本腰を上げて円の価値を下げる政策を取りそうだということで、自然と為替市場も将来の円の価値低下を織り込んで円安に向かった。これで超円高に苦しんでいた国内の輸出産業は、ほっと一息をつくことができる環境になったのである。
もうひとつは20兆円といわれる緊急経済対策である。これも経済学的には正しいことで、市場に任せていても有効需要が増えない時には、政府が積極的にお金を使って需要を喚起することが必要である。
一般的には巨額の借金を抱える国家財政の中で、このような大規模な出費を断行するのは勇気のいる行動なのだが、それを実際にやりそうだということで、さっそく近い将来の収入増を織り込んで株価も上昇したのである。
さて、デフレ経済と円高不況を脱して、2%の穏やかなインフレと、それなりに海外の競合企業と戦いやすい円安レベルへの移行ができれば、本当に景気が回復するのかどうか?
ここまでの考え方は正しいのだけれど、実はアベノミクスには最後のピースがひとつ欠けている。今回のコラムでは、それをきちんと説明しようと思う。そんなに難しい話ではないので、ぜひマジメな経済学の話につきあっていただきたい。
●アベノミクスのカラクリ
さて、アベノミクスがどう働くのかを「風が吹けばおけ屋が儲かる」ように手順を追って説明しよう。
政府が20兆円を出費して経済を刺激すると、それに比例して多くの民間企業の売上高が増大する。どれくらい増加するかというと、政府の出費に乗数効果というものが加わって、50兆円ぐらい世の中の企業の売上高合計が増大すると考えられる。同時に円安のおかげで輸出産業の競争力も高まるので、これによる売上高の大幅増も見込める。
そうなってくると雇用が増えることになる。2012年は電機業界を中心にどんどん人減らしをしていたのだが、13年は建設・土木業界から始まって輸出産業まで、増えた売上をカバーするために雇用が増える。
実際は雇用主もいきなり雇用を増やすのは怖いので、まずは今働いている人たちにたくさん残業をさせることで乗り切ろうとする。よって、失業者よりも先に、今仕事を持っている人のほうが恩恵を被ることになるのだが、最終的には失業が減って雇用も増える。
つまり、今仕事を持っている人も失業している人も、アベノミクスが進むと、今よりも収入が増えるようになるのだ。ここまでは経済学的にも正しい。
問題は、国民の収入が増えたらどうなるのか?