警察庁が、こうした状態がさらに深まることを、指をくわえて眺めているとは思えない。当然、宿泊者名簿記載の義務化やその自由閲覧を求めてくるはずだが、そういった動きが伝えられないから不思議なのだ。
警察庁は、民泊で大きな事件が起こるのを待っているのではないだろうか。民泊で利用された住宅で大きな犯罪が行われたり、テロの拠点になり、そこで世間の大きな注目を浴びたところで、「民泊は怖い」という世論を煽って一気に規制を強化する――。こういうシナリオだ。
ただ、民泊が犯罪の温床になるのは避けるべきなので、そういう方向に進んだとしても致し方ないだろう。今後の警察庁の動きを見守りたい。
保険
もうひとつ、民泊をめぐる動きの中で注目すべきバックヤードは「保険」である。
まず、現行では民泊で事故が起こった場合にそれをカバーするための保険制度がほとんど整っていない。住戸内の備品を持ち去られたり、損壊された場合の補償である。
民泊マッチングサイトの最大手であるAirbnbでは、ホストはゲストの利用要請を拒否できるシステムになっている。そこで危険なにおいのする利用者を排除できるので事故は起こりえない、と解釈するのは少し楽観的すぎるかもしれない。恐らく、見えないところで事故はたくさん起こっているはずだ。それがどのように解決されるのか、あるいはホストが泣き寝入りしているのかは、今のところよく見えない。
政府の規制緩和によって、民泊が晴れて合法となれば、当然このリスクをカバーする保険商品が登場するはずだ。保険料金はリスク算定の方法にもよるだろうが、利用料金の数パーセント程度だろうか。
民泊の経済規模は、将来的に10兆円になるとも想定されている。その3%が保険料になるとすれば、損害保険業界は3000億円の新たなマーケットを獲得することになる。どの企業が最初に参入するのかにも注目される。ファーストペンギンになれば、この3000億円の大半を獲得できるかもしれないからだ。
規制強化の可能性
最後に、現在の民泊の拡大と定着には、法規制の緩和以外にいくつか大きなハードルがあることも想定しておくべきだ。
まず、現在の民泊は基本的にホテル・旅館業界とそれほど競合していない。その理由は、今のホテル・旅館業界は空前のインバウンド需要に沸いている。客室は過去最高とみなせるほどの稼働率で推移しており、東京や大阪の狭いビジネスホテルが1泊3万円もするという状態が、それを象徴している。だから、彼らは今のところ民泊に目くじらを立てている暇がないのだ。