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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

住宅購入、35年間ローン払い続け老朽化住宅を手にする悲劇…低金利=今買うべきの盲点

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役

 不動産投資の猛者たちが勝手に傷つき、敗者となるのはまだしも、気の毒なのは明らかに情報リテラシーのない一般庶民だ。金利が下がったので住宅を「慌てて買わなければならない」、これはちょっと質の悪いジョークにしか聞こえない。

こんな不動産投資は、本当は「やってはいけない」

 住宅を買う人は今一度、自分の買う住宅の将来をよくシミュレーションしてみることだ。会社勤めなら、自分が定年になるまでの、いわば一生分の給料債権を(金融機関に)差し出して住宅を買い、すべてのローン支払いが終了したときに目にするその住宅がどのようなものであるかを考えてみることだ。

 築30年以上を経たデザインはきっと「今どき」ではない、パッとしないマンションに変わり果てているはずだ。その頃には、大規模修繕や建替えをめぐって管理組合の意思統一を図ることも大きな問題となっているかもしれない。以前のように人口は右肩上がり、みんなが住宅困窮者で、自分の持っている不動産をいざマーケットに売りに出せば必ず売れる、そんな時代はとうの昔に過ぎ去っている。

 今、街中にある築30~40年のマンションをもう一度じっくりと観察してみることだ。これが、あなたが苦労してローンを払い続けた結果として「所有」する不動産なのだ。ときめきを感じることができる人はどれだけいるのだろうか。

 こんな状態になっても、新築時のような不動産の「担保価値」があると考えられるだろうか。不動産に投資する目線にはこの「時間軸」の考え方が絶対に必要なのだ。特に、マンションのような建物価値にウェートが大きい(通常のマンションは売り出し時点で土地代の割合が3割程度、建物が7割程度である)不動産は、投資としての「出口」で、建物価値が大幅に落ち込んでしまう。こんな不動産投資は、本当は「やってはいけない」のだ。

悲劇

 さて話を再びマイナス金利に戻そう。金利はその国の「成長速度」を図るモノサシである。日本は長らく「低金利」のまま世界経済の成長から放置され続けてきた。日本は少なくとも国内の需要だけで、今後大いに発展していくことは難しい国になってしまったからだ。

 実需がしぼんでいく国の金利が上がるわけがない。低金利を中心とした金融緩和策をどんなに続けても、そのお金は国が期待する経済エンジンに火をつけることはなく、行き場を失ったマネーが、「実需」が増える見込みもない不動産に振り向けられるのだ。

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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