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黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

自由業は「不」自由業?「会社を辞めて独立」の落とし穴…会社員優遇の様々な保障失い…

文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー

 まず(1)について詳しくみてみよう。

 多くの人が独立開業できない理由として挙げるのが、「やってみたいプランがない」と「収入が得られるか不安だから」である。とくに後者は、今後の生活を考えると躊躇してしまうだろう。

 したがって、自営業者等にとって重要なのは、少なくても毎月安定した収入を得ることなのだが、マネープランを考える上で、この収入に対する経済的リスクがあるため、決まった貯蓄もできず、イザという時にローンやクレジットに頼ってしまいがちだ。

 ただし、もちろん自営業者等も、マイホーム購入や子どもの教育費、老後の生活資金といった人生の三大支出はサラリーマン世帯同様抱えている。また冒頭のA美さんのような年代のご家庭の場合、子どもの教育費負担が終わってから、本格的に老後生活に入るまでのこの期間が最後の“貯め時”である。この間にしっかり家計管理をして将来にも備えたいところだ。

 自営業者等は、仕事上の必要経費と生活費の区別がつかないことが家計管理できない一番の原因である場合が多い。

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 したがって、まずは仕事上の報酬の振込用口座と生活用口座は分けて管理する習慣をつけることだ。

 例えば、収入は安定しているのに、その月によって貯蓄の金額がバラバラなのは、きちんと支出を把握していないため。予想される最低年収を12で割って月収平均を把握し、収入の多い月も、平均額の範囲内で家計を管理しよう。そして、収入の多かった月は専用口座にプールしておき、少ない月に備えておくこと。

 この備蓄口座は、病気やケガで収入が途絶えたときなどイザというときのためのお金として、少なくとも生活費の6カ月分を目標に貯蓄しておきたい。

自営業者等は自助努力が不可欠

 さらに、自営業者等はほとんどの場合、ボーナスや退職金もなく、公的年金や健康保険、雇用保険など社会保険制度上でも、会社員に比べて保障が手薄である(【図表2】参照)。

 したがって、その分を私的年金や私的保険というかたちで、自分で確保しておく必要がある。例えば、国民健康保険の場合、健康保険の所得補償の仕組みである「傷病手当金」がないため、民間保険の所得補償保険や就業不能保険で備える方法がある。また、年金を補填する方法としては、個人型確定拠出年金(iDeCo)やNISA(少額投資非課税制度)を利用したい。

 前者に加入できるのは60歳までだが、手厚い税制優遇が受けられる。また後者については、平成29年度税制改正で、非課税期間20年、投資上限が年40万円の「積立NISA」が創設される予定(平成30年1月開始)となっている。

 FPとして、さまざまな会社員の方の保障制度や福利厚生を拝見する機会も多いが、そのたびに心底うらやましいと感じる。その一方で、この究極の自己実現が可能となる働き方は止められない、というのが正直なところだろうか。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
https://www.naoko-kuroda.com/

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