住宅ローンの総返済額だけを比較すると、現行制度の約3628万円のほうが得策ですが、団信保険料を加味すると、現行制度では約3832万円ですから、金利が高くなっても団信保険料の負担のない新制度の約3797万円のほうが総支払額は約35万円少なくなるのです。
金利動向や価格など、他の要素は無視して団信保険料の扱いだけを考慮した場合には、9月末までに申し込むよりは、10月以降にしたほうが得策ということになります。
10月以降の団信の保障範囲も充実
この保険料支払いの仕組み変更と同時に、10月1日以降の新団信では保障の範囲も充実します。
現在の制度では、保険金の支払い対象になるのは高度障害と死亡の場合です。高度障害というのはどういう状態かといえば、生命保険文化センターによると次のようなケースです。
・両目の視力を全く永久に失ったもの
・言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
・中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
・両上肢とも手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
・両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
・1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
・1上肢の用を全く永久に失い、かつ1下肢を足関節以上で失ったもの
新制度では、図表3にあるように死亡以外の保障の範囲が、この「高度障害」から「身体障害保障」に変更されます。上にある高度障害以外でも、身体障害者福祉法に定める障害等級(1・2級)の「身体障害者手帳」を交付されれば保険金の支払い対象になります。
具体的な例としては、ペースメーカーを植え込んだり、人工透析が不可欠になって日常生活活動が極度に制限される状態などが当てはまります。ただし、高度障害の一部については、新団信では保障対象ではなくなるものもあります。また、一定の保険料の上乗せを行って3大疾病保障団信に加入する場合には、3大疾病のほか、介護保障も保険金支払いの対象に加わります。
10月からフラット35Sの金利引下げ幅は0.25%に
いいことばかりではありません。フラット35には、認定低炭素住宅・長期優良住宅など、基本性能の高い住宅を対象に、当初5年間または10年間の金利を0.30%引き下げるフラット35Sという制度があります。10月1日からの申込受付分について、このフラット35Sの金利引下げ幅が現行の0.30%から0.25%に縮小されるのです。
フラット35Sを申し込む場合には、金利引下げ幅が小さくなる前に申し込んだほうがいいことになりますが、ただ、これも団信に加入する場合には、やはり10月1日以降のほうが得策になる点では変わりなさそうです。
図表4をご覧ください。9月末までの金利引下げ幅0.30%で申し込んだ場合と、金利引下げ幅が0.25%になる10月以降を比較してみました。団信保険料を含めた総支払額は、9月末までなら約3745万円ですが、10月以降であれば約3724万円になります。21万円ほど、10月1日以降のほうがトクになる計算です。
通常のフラット35だとその差は35万円でしたから、金利引下げ幅縮小によってやや負担軽減額は小さくなりますが、それでも10月以降が有利であることは変わりません。
ただ、9月までに現行制度で申し込んでも、10月以降新制度に申し込み直すことができるので、10月以前にどうしてもほしい物件が出てきた場合には、すぐに申し込んだほうがいいかもしれません。二度と同じ物件は出てこないのですから、そのあたりの判断は自己責任でなさってください。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之
住宅ジャーナリスト。各種新聞・雑誌、ポータルサイトなどの取材・原稿制作のほか、単行本執筆、各種セミナー講師、メディア出演など多方面に活動。『山下和之のよい家選び』も好評。主な著書に『よくわかる不動産業界』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)など。