間違った介護や徘徊老人への対応、極めて危険…大怪我をさせ多額の損害賠償支払うハメに
これに伴い、自転車保険の加入が急増したが、自転車事故の場合に補償額が2倍になるものや死亡保障があるもの、一般的にはケガによる入院・通院などの医療保障に個人賠償責任保険がセットされている。
自転車保険に加入する前に、覚えていただきたいことがある。すでに加入している自動車保険や火災保険などに、自転車保険の補償内容である個人賠償責任や傷害保険がセットされているケースもある。注意したいのは、いくら複数社に加入していても原則、補償されるのは、法律上の賠償額だ。保険料の無駄を省く意味でも、加入している自動車保険などの内容をチェックしていただけたらと思う。
また、新規に自転車保険に加入を検討する場合、すでに加入している自転車保険などに個人賠償責任保険や傷害保険をオプションでセットした場合の保険料と補償内容を比較することを、お勧めしたい。というのは、自転車保険の個人賠償保険は、おおむね補償額の上限が設定されているのに対し、オプションとしてセットした場合の個人賠償保険の補償額は国内無制限の会社が一般的だからである。
いずれにせよ、「何のために」という目的をきちんと決めて、補償も保険料も無駄なく、漏れのないようにすることが肝要だ。
ボディメカニズム
介護の話に戻ろう。座っている人の脇の下に両手を回して、上に引き上げてみると、びくともしないことに気付く。何度も同じことを繰り返したところで、結果は同じだ。筆者は介護職員初任者研修を修了しているが、その際に「ボディメカニズム(=体の動き)」を活用した介護の仕方を習った。
普段はまったく気にしたことはないだろうが、人間が座っている姿勢から立ち上がろうとする場合、実は一度、体を斜め前方に倒してから立ち上がるものだ。試しに、まっすぐ頭上に引っ張られるように立ち上がってみてほしい。それが困難であることがわかるだろう。
介護にもそのボディメカニズムを活用する。介護者が足を肩幅程度に広げ、腰を落とし、介護を受ける方のそれぞれの脇の下に介護者の手を入れる。介護者を斜め前に倒し、すぐに上に引き上げる。スムーズに立ち上がらせるためには、介護を受ける人に自然体でいてもらうことが望ましい。そのためにも、一連の流れは、伝える必要がある。Aさんが力を抜いてくれたおかげで、立ち上がりもスムーズにできた。
警察官と筆者は右と左に分かれて、体を支えながら警察署へ向かった。Aさんは、よほど心細かったのか、その間、ずっと私の手を握り締めておられた。警察官と筆者は「寒くないですか?」「よくがんばりましたね」「もう安心してくださいね」「警察署に行けば、すぐに暖かりますよ」「すぐそこだから」「もう大丈夫ですよ」と交互に声を掛け合い、背中をさすり続けた。
のちに知った話だが、その警察署では高齢社会を見据え、徘徊老人が増えることを想定し、署内で共通の認識を持って対応を心掛けているようだ。徘徊の連絡を受けて駆けつけても、警察官の制服を見ると緊張して、徘徊を否定したり、いきなり怒り出す人も少なくない。そこで、ソフトで自尊心を傷つけない対応を心掛けているとのことだった。
警察署にいくと、すでに数人の警察官が待機していた。Aさんを座らせ、警察官が「こんにちは」「どこから来られましたか?」「お名前は?」と中腰に座り、目線の高さをAさんの目線に合わせながら、ゆったりとしたペースで聞いていた。
会話ができないAさんは、予想通り何を聞いてもニコニコとしているだけだ。ポシェットをきちんと斜めに掛けていたAさんの身元は、ポシェットの中に答えがあるのかもしれない。会話ができない高齢徘徊者の対応も、今後は考えていたほうがいいのかもしれない。警察署内の動きが慌ただしくなった。筆者も発見時の様子や住所などを聞かれた。
そうこうするうちに、70歳ぐらいの女性が血相を変えて、警察署に飛び込んで来た。「いたぁ! 良かったぁ」と言うと、その場に座り込んだ。「こんなスピード解決も珍しい」と警察官が言うぐらいの素早い解決となった。
それにしても、たまたま筆者が横断歩道を歩行中のAさんの姿を見ていたこと、Aさんがステテコ姿だったこと、そして介護関連の仕事をしていたために徘徊と気がついたが、これが下着姿ではなく、座っているAさんを見たら徘徊とは思わなかった。徘徊中かどうかを見極められるのは、本当に難しいことだと痛感した。また、今にすれば、警察署についてから、温かい飲み物や上着などを用意してもらえたら良かったと反省しきりだ。
次回は、徘徊中の方に遭遇したときの対応の仕方や、最先端の徘徊感知機器について伝えたい。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表、保険・介護・医療ジャーナリスト)