投資・保険・不動産の専門家の話を鵜呑みにすると、「不利益」を被るワケ
分野の境界が崩れてきている
家計で部分最適と全体最適が一致しない、もう一つの大きな要素は、分野の境界があいまいになってきていることだ。
一つ例を挙げてみよう。超低金利が長期化し金利での明確な差別化を図るのは困難になっている住宅ローンにおいて、各金融機関は金利以外での差別化を模索している。そこで広がりを見せているのが、疾病保障の充実だ。
住宅ローンでは、団体信用生命保険(団信)と呼ばれる死亡保障に加入することが借り入れの条件になっていることが多く、その費用は金利に含まれていて別途請求されないのが一般的。しかし、それにとどまらず、例えば、じぶん銀行やソニー銀行は、がんと診断確定されるとローン残高が2分の1になる「がん50%保障団信」を金利の上乗せなど追加の負担なしで提供している。
また、住信SBIネット銀行と楽天銀行は、精神障がい等を除くすべての病気・ケガを保障する「全疾病保障」を無料付帯している。所定の就業不能状態により月々の返済額が保障され、その状態が所定の期間、継続した場合は、ローン残高が0円になるという内容だ。
例えば保険の専門家が、顧客の必要な保障内容・金額を算出し過不足なく保険商品の提案を行ったとしても、顧客の住宅ローンにこのような疾病保障が付帯している場合、それを考慮して必要な保障内容・金額を判断していなければ適切な提案にならない。また、顧客の住宅ローンにこのような疾病保障がなければ、疾病保障付きのローンへの借り換えによる支払額削減メリットもシミュレーションすべきである。メリットがあれば借り換えを前提として、生命保険で確保すべき保障内容・金額の算出も行った上で、住宅ローンと保険の提案を行うのが、「全体最適」の提案ということになるだろう。
投資や保険、不動産の専門家から提案を受けても、一般の人にとって、それが「全体最適」と一致しているかどうかを判断するのは困難だ。この判断を助ける方法は、例えば次の2つがある。
・CF表を作成する(ファイナンシャルプランナーなどに作成してもらってもよい)
・幅広い分野に精通するファイナンシャルプランナーにセカンドオピニオンを依頼する
専門家の提案には、メリット、デメリットが必ずあり、それだけで聞くとメリットばかりのように思えることもあるが、ライフプラン全体で考えると小さく思えたデメリットが実は大きな問題になることもある。「全体最適」をぜひ意識してほしい。
(文=平野雅章/横浜FP事務所代表、CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士)