高額所得者の間で密かに流行していた「節税」策…不動産所得の損失を給与所得と相殺=損益通産
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな航空機は「こうじき」です。
「オペレーティング・リース」という取引があります。会社を経営する方であれば、税理士さんなどから聞いたことがあるかもしれません。
飛行機や船舶のリース事業に出資し、多額の減価償却費を計上しながらリースで利益を得て、数年後には売却して売却益を得ようとするものです。投資商品なので、実際に利益が出るのかどうかについては言及しませんが、以前は個人のお金持ちの間でも流行っていました。その理由のひとつとして、この取引にはリースや売却の利益だけではなく、税の圧縮効果があったことが挙げられます。
しかし、個人が民法上の組合を利用してオペレーティング・リースをし、不動産所得で確定申告を行い、発生した損失を給与所得などと損益通算していたところ、税務調査によって否認されてしまいました。
給与所得とは、会社員やパート・アルバイトがもらう、給料による所得です。不動産所得は、不動産の賃貸による所得です。給与所得はマイナスになることがありませんが、不動産所得は、収入より経費が多くなることがあります。
このマイナスをほかの所得と相殺できるのが、損益通算です。
オペレーティング・リースの組合は、事業の損失や利益を出資した個人に分配し、分配された個人は不動産所得にかかるものとして、これらを損益通算して所得税の確定申告を行っていました。
これに対し、税務調査で「その処理はだめだよ」と言われてしまったのです。
そもそもは、このスキームをつくった人が、勧誘活動も行っていました。金融機関とも交渉して、組合で借り入れも行い、組合で借りたお金と、個人からの出資金で航空機を買いました。そして、航空機は航空会社に貸して、5年ほどたったら売却するスキームです。具体的な金額を、例を用いて紹介します。
1億円出資すると、年3400万円の売上が発生します。航空機は減価償却資産で、減価償却費が年6000万円計上できます。すると、不動産所得は2400万円の赤字となり、損益通算で給与所得から差し引いて、源泉徴収された所得税を還付にすることができます。そして、5~6年たってから航空機を売却し、売却益を2億4000万円得ます。
この事業について組合による航空機リースの共同事業として不動産所得を申告していましたが、税務調査では、実態は投資であり損益通算のできない雑所得として認定されました。これについて、納税者側は争う姿勢をみせたわけです。
争点のなかで、国側はオペレーティング・リースが、日本の租税歳入そのものを取引対象とした異常な法形式であるかのように主張しました。航空機リースの事業では利益は得られず、納税額の圧縮を前提とした商品であるといったわけです。
「リースだけでは利益が出ないかもしれません。ただ、所得税が還付になりますから、それを含めると得しますよ」などと勧誘した可能性も否めません。
しかしながら、リース事業だけでも利益が出る可能性は十分にあり、合理的な経済人であれば、税負担の軽減を動機・目的として契約を選択することは自然かつ合理的です。よって、国の主張には理由がなく、納税者の取引が認められることとなりました。
しかし、国は敗訴して、それで終わりではありません。あらたな法律を創設し、今後の取引に備えました。
【租税特別措置法41条の4の2(抜粋)】
組合事業から生ずる不動産所得の金額の計算上、(略)損失の金額は、(略)生じなかったものとみなす。
つまり、個人がオペレーティング・リースで損失を出しても、ほかの所得と損益通算ができなくなったわけです。
お金持ちは、常に節税の方法を探しています。顧問契約している一般の税理士さんでは、新たなスキームを提案してくれることは少ないからです。そうすると、オペレーティング・リースのような規模の大きいスキームを考える人たちが活躍する機会が生まれます。租税回避と認定されないような、合理的な範囲での節税方法が、みなさんの耳元に届くことを願います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)