ガネーシャと貧乏神』
著:水野敬也/飛鳥新社
2007年に出版されて、徐々に売り上げを伸ばしていき、最終的には200万部以上のベストセラーとなった水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社/刊)。ドラマ化をはじめ、舞台化、さらにはアニメ化もされるなど、多くの人がガネーシャの教えに夢中になった。
そして、昨年末に待望のシリーズ第2弾となる『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』が上梓された。2巻が出版されるまでに5年強という期間が空いたわけだが、その間に水野さん自身にも大きな心境の変化があったという。
「まさか、自分が調子に乗るとは思わなかった」。基本的に怖がりで、自分でも調子に乗るような性格だとは思っていなかったという水野さんは、『夢ゾウ』が売れた当時のことをそう振り返る。いつの間にか天狗になり、「モノづくりを極めた」とまで思ってしまっていたそうだ。
しかし、そんな自分を戒めてくれたのが、作品のクオリティにシビアな読者だったという。小説が売れてそれなりの印税が水野さんの元に入ってきた。その額に最初は驚いたが、すぐに冷静になった。
「もし、仮にそのお金でクルーザーを買ったとしたら、そのクルーザーに乗りたくなるだろうし、誰かに見せびらかしたくなると思います。でも、そんなことをしていたら、どんどん時間がなくなっていく気がしたんですよ。次の本も書かないといけないけれど、執筆の時間は奪われているわけで、短い時間でクオリティの高いものを提供できる自信もありませんでした。だから、このまま調子に乗っていたら叩かれるだろうなと考えて」
そう思った瞬間、「お金と握手ができない」ことに気付いたと語る。
そして、『夢をかなえるゾウ』はたまたま書けたのだという謙虚な気持ちを取り戻し、次回作を待っている読者の存在に気づいて、ようやく『夢をかなえるゾウ』と向き合えることができたと言う。
そんな紆余曲折を経て執筆された『夢をかなえる2 ガネーシャと貧乏神』は、発売間もなく33万部を突破し、4月12日にはオーディオブック版も配信開始になるなど、好調を維持している。
水野さんに今後の目標について聞いてみると、「中途半端な笑いを取りにいくのではなく、最高級の笑いをもって情報という食材を料理していきたい」という。現代社会において、情報は必要不可欠なもの。そして数多の情報がそこかしこに転がっている。お金持ちになるため情報、健康になるための情報…とにかくありとあらゆる情報がある。しかし、それがまだ人々には伝わっていない。「それを伝えるために必要なのがエンターテインメントです。小説という形式は伝えるための手段の一つで、それらを使って情報を伝えることが僕の出来ることであって、バリューを生み出せる場所だと思います」と力強く宣言する。
作者の水野さんは、『夢をかなえるゾウ』の異例の大ヒットの先で、調子に乗っていた自分を冷静に見つめ直し、一周してコンテンツの素晴らしさに気付き、『夢をかなえるゾウ2』の執筆へとつなげていった。
恋愛体育教師・水野愛也による『LOVE理論』や、犬の写真を多用した新しいカタチの自己啓発書『人生はワンチャンス!』など、『夢をかなえるゾウ』シリーズ以外の執筆も活発に行っている水野さん。次にどのようなエンターテインメントで情報を私たちに届けてくれるのか楽しみだ。
(文=新刊JP編集部)