「これまでもそうしてきたから」の壁
1つ目は、「これまでもそうしてきたから」という点が挙げられる。たとえば、野球部出身で野球部の顧問を長いことしてきている教師の場合、20年も30年もそうした生活を続けてきているわけである。逆に言えば、それ以外のやり方、過ごし方は知らない。部活動の時間を半分にした場合のやり方など、やったこともないし、イメージできないのだ。人はやったことのないことはやりたがらないものである。
企業においても、長時間労働を若い頃から長いこと続けてきている仕事人などは、それ以外の方法を知らない。いくら環境が変わろうが、目一杯働くというスタイルを変えようとはしない。そういう人がリーダーの立場になると、部下をも巻き込み、そのスタイルを貫こうとする。
「これまでもそうしてきたから」というのは、仕事スタイルに限らず、一つひとつの業務についても言える。こうした思考の人たちは、これまでやってきたことを、これまで通りやる傾向にある。しかし、これまでやってきたことをやめずに続けている以上、新たに発生する業務もあるわけなので、やることは増え続けることになる。これまでやってきたことを見直し、やめるなり、削減するということをしなければ、「働き方改革」など進むはずはないのだ。
「そうしていたほうが楽だから」の壁
2つ目として、「そうしていたほうが居心地がいいから」という点がある。「部活動大好き教師」の場合、部活動指導をしているのが日常であり、自分として一番自然であり、やりがいもある。やり慣れていることであり、特に相手は子供でよく言うことを聞いてくれるので、影響力を行使しやすく、存在感も示せる。少々言い過ぎかもしれないが、家にいて邪魔者扱いされるよりよっぽど居心地がいいのだ。
「仕事大好き上司」も同じだ。仕事一筋で来た人などは、仕事以外に趣味もなく、熱中できるものもない。週末に家にいたところで、いったいどうしたらいいのかわからない。たまの休みなら家族サービスもしないではないが、毎週のことではかえって困惑してしまうのである。
2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香氏の『コンビニ人間』(文藝春秋)が思い起こされる。変わり者の主人公が、学生時代からアルバイトとして続けているコンビニの店員をしている時だけ自然でいることができ、しかも優れたコンビニ店員でいられるというストーリーだ。こうした人たちには、部活動指導や仕事以外に、熱中できるものを見つけてもらうのが一番いいのだが、そう簡単なことではないであろう。ただ、こうしたことに巻き込まれる周囲の人たちは、たまったものではないということをよく理解してもらわなければならない。