実は、私は新入社員などの若手会社員の企業研修を数多く担当していた時期があり、その頃は若い人の振る舞いや態度がよくないと思うと、職業病のように、ホテルのフロントだろうと、列車の中だろうと、仕事でもないのに、知らない人にも咄嗟に注意する癖ができていたのです。
その若い会社員は、本当に思ったことを口にしたのでしょう。私は、若い人に注意を与えることそのものが悪いとは思いませんが、自分のしたことが他の多くの人にも「余裕のない」振る舞いに映るかもしれないと思うと、言われたことを完全には否定できない気がしたのです。
ビジネスパーソンとして周囲に与えたい印象
それ以来、私はあらためて「気持ちに余裕」を意識するようになりましたが、やはり余裕のない人と思われると、得をすることはないように思えます。「忙しい人」には、あえて仕事を頼みたいと思うことはあっても、「気持ちに余裕のない人」に仕事を頼もうとは思わないものです。
たとえば新幹線の中で車内販売をする販売員の人を思い浮かべてみましょう。この人から買いたいと思う販売員と、そうでない販売員がいるのではないでしょうか。
何かを買う乗客のほうも、洗練された振る舞いができる人ばかりではありません。注文するときも、「すみません。コーヒーをお願いします」とは言わず、「コーヒー」と言うだけで、無表情にお金を支払うだけ。販売員が「ありがとうございました」と言っても、無言で無視している人は多くいます。そんなふうに、販売員が愛想よくしても仕方がないと思える乗客もいますが、そんな乗客にも、常に愛想よく接している販売員は、「気持ちに余裕」を持っている人と言えるでしょう。
紳士的でない乗客が相手だと不機嫌になってしまう販売員は、気持ちに余裕のない人であって、その人から積極的に買いたいと思う人は少ないのです。ビジネスパーソンも普段から、こうした様子を周囲に見られています。自分には親切な人でも、どこかでその人の余裕のない様子を見たら、印象の良さはガクンと下がってしまうでしょう。
ビジネスパーソンは周囲から、あの人ならいろいろあっても、きちんと物事をこなすだろうと思ってもらうことが大切です。イヤなことや理不尽なことがあったら、すぐにピリピリする人では、安心して仕事を任せることができません。
テンスになっている気がしたら、「気持ちに余裕」を思い出し、リラックスした感じを取り戻しましょう。ある程度の緊張感を持って仕事にあたることは大切ですが、同時に余裕も持って仕事に取り組みたいものです。そうすることで、周囲の信頼も得やすくなるでしょう。
(文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表)