まずは1003名を調査開始時の食品摂取の多様性得点の分布に従い3等分し、0~4点の低得点群、5~6点の中得点群、7~10点の高得点群の3群を設け1年間の抑うつ度得点の変化を比べてみた。
まず低得点群の調査開始時のGDS得点の平均が約4点、1年後には10%程度抑うつ度が上昇した。中得点群は開始時の得点が3.2点で1年後には33%も上昇した。結果的に低得点群と中得点群は1年後にはともに4.2点となり同程度の抑うつ度になってしまった。
これに対して高得点群の開始時のGDS得点は中得点群と同じ3.2点で、1年後の上昇は8%にとどまった。食品摂取の多様性得点の低得点群と中得点群は抑うつ傾向がもともと高いか、急に高くなる。一方、高得点群の抑うつ度はもともと低く、高くなりにくいことがわかった。
この3群間の変化の違いは統計学的に偶然をほぼ完全に否定できる水準であった。なお、この3群間に男女比と年齢の違いは見られない。要するに食品摂取の多様性が優れたシニアに比べ低いシニアは、抑うつ度が高くなりやすいのである。
分析方法をさらに高度にして、抑うつ度得点の変化を抑うつが高まる方向と不変または軽減する方向の2つに大別して、先の食品摂取の多様性得点のレベルで分けた3群おのおのの抑うつ度が高まる相対リスクを比較してみた。すると、多様性得点の低得点群を基準とすると、高得点群は約30%抑うつ度が高まるリスクが低いことがわかった。
この関係は、性、年齢、地域活動への参加、初回調査時の抑うつ度得点、趣味や稽古事の習慣など他にも抑うつ度の変化に影響する要因を加味酌量しても変わらない。食品摂取の多様性得点が5~6点の中得点群は、ばらつきが大きく明瞭なリスク差はなかった。安寧を生み抑うつを予防するには、食品摂取の多様性得点を7点以上にする必要がありそうだ。
食品摂取の多様性はわれわれに安寧をもたらすことがわかった。体の栄養状態が徐々に悪くなるシニア世代は、良好な栄養状態を生みだす食品摂取の多様性が心の健康にも欠かせない。ぎくしゃくした超高齢社会の風景には食生活の劣化が投射されているのかもしれない。シニアは遠い先とみるミドルもプレシニアも食生活の見直しは早めにしたほうが良い。
(文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士)