そんな東京に近い静岡県は、1987年に静岡空港の建設を決定。静岡空港は羽田・成田と中部国際空港に挟まれた位置にあり、静岡県民からも「ごく一部しか使わないのではないか」と疑問を呈されてきた。
実際、静岡空港から静岡駅まではバスで約1時間の距離。発着便数や就航地といった利便性を考慮すると、静岡空港の存在意義は薄かった。空港の利用促進策として、静岡県は「首都圏第3空港」を打ち出して、静岡空港のPRを積極的に展開する。そして、秘策として打ち出されたのが東海道新幹線の静岡空港駅計画だ。
静岡空港は、東海道新幹線が走るトンネルの真上にある。そのため、ここに静岡空港駅をつくり、新幹線の駅と空港とを直結させれば「東京から約1時間半でアクセスできるようになる」と主張。JR東海に、静岡空港駅を設置するように請願した。
しかし、静岡空港駅をつくっても需要は未知数。当時のJR東海は、東京駅-新大阪駅間を結ぶことに傾注していたこともあり、その中間に駅を新設することには消極的だった。途中駅ができれば、所要時間が長くなる。また、東海道新幹線のダイヤはすでに過密で、新たな各駅停車の新幹線を設定できる余裕はなかった。それらの事情から、JR東海は静岡空港駅に難色を示した。
JR東海が難色を示したことから、静岡県の静岡空港駅計画は小康状態のまま忘れられていった。
東京、“空の渋滞”
しかし、ここにきて風向きが変わりつつある。今般、訪日外国人観光客が増加し、再国際化した羽田空港の発着回数が限界に近づいてきている。政府や財界からも「首都圏第3空港」を望む声が上がり始めた。そうした声が大きくなるにつれ、一度は見送られた静岡空港駅が水面下で検討されるようになっているのだ。
従来、鉄道関連の政策・計画は国土交通省の鉄道局が担当する。ところが、静岡空港駅を水面下で検討しているのは、国土交通省鉄道局ではない。航空政策を所管する航空局だ。国土交通省職員は、その背景をこう説明する。
「今般、訪日外国人観光客が急増し、羽田・成田の需要は高まっています。しかし、羽田・成田のキャパシティは限界で、発着便数を増やすことは難しくなっています。国交省では、羽田の発着回数を増やす取り組みとして、さまざまなアイデアが出されました。羽田には全部で4本の滑走路があります。滑走路を増設することで、空港の発着回数を増やそうという案も出ました。しかし。羽田・成田のキャパシティは滑走路の増設では対応できません。なぜなら、東京上空には、羽田や成田から飛び立つ飛行機のほか、着陸待ちの飛行機もたくさん航行しているからです。“空の渋滞”が起きているため、羽田・成田の滑走路を増やしても、発着本数を増やすことはできないのです」