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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第53回

談合で価格決定、不当利得の新聞業界~過小資本で経営の傾いた巨大新聞社に税金投入?

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 太郎丸は二人に対しこの大義名分を何度も強調した。大義名分からすれば〝投資ファンド〟という表現はフィットしない。しかし、高齢の太郎丸には他の言葉は浮かばなかった。

 経済記者の吉須はもちろん、政治記者出身の深井にも当然、違和感があった。〝投資ファンド〟という言葉だけを取り上げて、太郎丸の主張を一蹴することは可能だった。二人とも記者の大先輩である太郎丸に配慮するような男ではないし、会社も違うので、ある意味で対等の立場だった。しかし、二人は嘴(くちばし)を挟まず、黙って太郎丸の熱弁を聞き続けた。

 太郎丸は〝投資ファンド〟という言葉を使うが、熱弁を聞いていればその意味するところがいわゆる〝投資ファンド〟と全く別ものであることがわかったからだ。

 構想では新聞経営者をチェックする組織、たとえば〝ジャーナリズム監視機構〟というような名称の組織を作り、そこに国に2000億円のカネを出させる、そして、その機構が新聞社に出資する。救済しても経営は機構が厳しくチェックするのだ。念頭にあったのは1851年に創業した英国の老舗通信社、ロイター通信社の「ロイター発起人会社」だった。

 「発起人会社」はロイターの編集の独立・中立性を保つために、会社の合併などの議案を否決できる特別な株式、「黄金株」を保有している。「発起人会社」の取締役には世界的な視点でジャーナリズムの役割を理解している有識者が英国の内外から選ばれている。ロイターは2008年4月17日、カナダの金融情報大手トムソンに買収され、現在はトムソン・ロイターの一部門として存続しているが、「発起人会社」がゴーサインを出したからで、この仕組みは買収後も維持されている。

 太郎丸のいう〝投資ファンド〟はこの「発起人会社」をイメージしていたのだ。しかも、ロイターの「発起人会社」よりも一歩踏み込んで、〝投資ファンド〟の持つ新聞社の株式には経営者の選任にも拒否権を持たせようというものだった。

●談合がまかりとおっていた新聞業界

 懐石料理は出す料理の順番が決まっている。「先付」、「煮物椀」が出れば、次は「お造り」、「焼き物」、「箸休め」、「八寸」、「炊き合わせ」、「酢の物」、「ご飯」、「果物」、「菓子・茶」という順に出てくる。太郎丸が自分の構想を語り出し、二人が黙って出される料理に舌鼓をうち、時折、酒かビールで口を湿しているうち、「箸休め」の料理まで出されていた。

 太郎丸が新聞業界救済策について語り尽くし、手酌で熱燗を飲み干すと、引き戸が開いた。仲居が次の「八寸料理」を持ってきた。「八寸料理」はもともと、八寸角の赤杉の木地で作った角盆に盛った料理だ。主人が大皿から客の取り皿に取り、振る舞うことになっているが、現在の懐石料理では、三種から五種の酒肴や珍味を少しずつ一皿に取り合わせて出てくる。それをつまみにして食事の前にもう一度、酒を酌み交わすのである。

 当然、仲居は「八寸料理」とともに、熱燗二本、生ビール一杯も運んできた。

 「深井君も一杯ぐらいええじゃろ」

 仲居が部屋を出ると、太郎丸がお猪口を取るよう促した。深井が酌を受けると、次は吉須に徳利を向け、注いだ。今度は吉須が徳利を取り、太郎丸に盃を差した。

 「説明は終わりじゃ。お主らの疑問に答えよるが、取りあえず杯を上げるけん、ええな」

 太郎丸がお猪口を上げるのに合わせて、二人も酒を飲み干すと、吉須が口火を切った。

 「新聞社は市場が拡大していれば、どんなボンクラが経営していても、儲かる仕組みになっているんです。それがここ数年、部数が落ち込み、広告が急減しているから、今度は資本増強でも国の力を借りようなんて…。そんな虫のいいことが通用するんですか」

 「お主の言いよりたいことはわかっちょる。再販と特殊指定で保護されちょるのに、恥の上塗りじゃ言いたいんじゃろが」

 「恥の上塗りとはいいませんが、そういうことですね。最近まで談合で定価も決めていたから、ずっと不当利得を得ている業界じゃないですか」

BusinessJournal編集部

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