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江川紹子の「事件ウオッチ」第43回

前ソウル支局長に無罪判決 でも産経新聞と日本のメディアは、我が身を振り返るべき

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 政権側の主張の根拠は、「政治的に公平であること」とする放送法の記載だが、その一方で安倍晋三首相は出演するテレビ局を選別している。政権に親和的な局には出るが、批判的な論調の司会者が仕切る番組には出ないという「公平」とはいい難い対応で、テレビ業界の分断を図っている。安保法案が論議されている時に出演した番組では、安倍首相がひとり延々と長広舌をふるい、ほかの出演者があまり質問をできず、意見を言えないという、非常に「政治的に不公平」なものにしてしまった。こういう政権寄りの偏りは問題ないが、批判的論調に振れるのは許せないというのが現政権の解釈らしい。

 私自身は、テレビ局は報道機関でもあり、権力を監視したりチェックしたりする機能を放棄してはならないと思う。ただ、人にはいろいろな考えがあり、政権に批判的な番組だけでなく、政権寄りの番組があってもいい。さまざま立場でつくられた番組が存在し、視聴者がそれを見比べながら自身の考えを構築していくという状況が望ましいのではないか。そのためにも、番組の多様性を確保することが大切なのだが、それに関する政権・与党の姿勢はかなり狭量に感じられてならない。

 しかも今年は、政権によるメディアへの介入の動きが一段と露骨になってきた。

 番組でのやらせ問題が発覚したNHKに対して高市早苗総務相が文書で厳重注意し、自民党の情報通信戦略調査会が幹部を呼びつけ、事情聴取を行った。同調査会は、報道番組で出演者が「官邸から圧力を受けた」と語ったテレビ朝日の幹部も呼び出している。これについては、NHKと民放でつくるBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会と人権委員会が、「NHKの当該番組には放送倫理上重大な問題があった」とする一方で、NHKが自ら検証を行っていたことに触れ、高市総務相の対応は「放送事業者が問題を是正しようとしている過程に政府が介入することは、放送法が保障する『自律』を侵害する行為だ」と指摘。自民党の対応に関しても、「放送の自由と自律に対する政権党による圧力そのもの」などと批判した。

 そのBPOに政府が関与する仕組みを自民党が検討している、との報道もあった。欧米では政府から独立した組織が放送局を監督しているのに対して、日本の放送局は総務相が免許を交付し、許認可権を政府が握っている。それに加えて番組内容の検証を行う自律的な機関であるBPOにまで政府が関与することになれば、放送法の柱である「自由」と「自律」は、本当に危機的である。

 さらには、自民党の国会議員らの会合がゲストスピーカーの「沖縄の新聞はつぶさないといけない」といった発言に沸き、「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」などという議員の発言まで飛び出した。

 かつての自民党は、権力者の作法として、メディアへの介入には謙抑的だった。現政権には、そうした自制心は見られない。来年は参議院選挙もあり、政権・与党によるメディア・コントロールはさらに強化されることが予想される。

 メディア側も、市民の間のマスコミ批判や新聞離れ・テレビ離れの影響もあって自信を失い、政権・与党の分断政策の影響を受けて権力の介入への抵抗力が弱まっているように見える。

 そういうなか、政権批判も闊達にできる「言論の自由」を守るにはどうすべきなのか。韓国の状況を云々している場合ではなく、日本のメディアやジャーナリストは、それなりの覚悟を持って対応すべき正念場だろう。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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