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美顔ローラーは効果なし?「ゲルマニウム」は死亡者が出るほど危険

文=へるどくたークラれ/サイエンスライター
美顔ローラーは効果なし?「ゲルマニウム」は死亡者が出るほど危険の画像1ゲルマニウム(「Wikipedia」より/Jurii)

 一時期よりは落ち着いてきたものの、美顔ローラーやブレスレットなど、世間であやしい“健康ビジネス”の一翼を担っている「ゲルマニウム」。

 今回は、このゲルマニウムを評価してみようと思います。

 あらためて検証するまでもなく、賢明な読者諸氏ならば読む前からうすうす勘づいていると思いますが、広告にあるような効果が本当に得られるのであれば、この世から医療が消滅するような奇跡です。ゲルマニウムで顔をコロコロなでるだけで美肌になるなら、世界は美人で満ちあふれるでしょう。

 ともあれ、まずはゲルマニウムがバカ売れした背景からおさらいしていきましょう。

ゲルマニウム神話の由来

 時を遡ること40年以上前の1970年代、ゲルマニウムは「エイズの特効薬」という売り文句で登場したサプリメントです。当時不治の病として世界を騒がせていたエイズに便乗したかたちで出現しました。

 もともとは、レパゲルマニウムというプロピオン酸にゲルマニウム元素がくっついた有機ゲルマニウムからスタートし、一応きちんと研究がされていた時代もあり、免疫賦活(生体の持つ免疫機能を活性化させる)作用やインターフェロン(ウイルスの増殖などを抑えるたんぱく質)を誘起し、さらには疼痛緩和にも応用が利くなどと期待されました。いくつかの特許も認められ、ゲルマニウムの作用を支持する研究者や医師もいました。

 そうしたまじめな研究を横目に湧いて出た悪質業者が、免疫賦活作用があるならエイズにも効く、まして健康な人が飲めばさらに健康になる、という謎の解釈を繰り広げてサプリメントを派手に売り出したのです。しかし1979年に急性腎不全患者が続出し、その原因としてゲルマニウムサプリメントが指摘されました。

 ある親子の例では、健康増進効果を期待してゲルマニウム錠剤を生後10カ月の頃から子供に毎日与えたところ、3歳頃から歩行不安定になり転びやすく怪我が多くなったようです。

 母親は発達が良くないことが原因だと考え、ゲルマニウムをさらに増やして与えたところ、症状が良くなるどころか食欲不振、四肢の衰え、しびれなどが続いて発症し、さらに言語発声も不明瞭になり、ついには食べ物を飲み込むことができずに嘔吐を繰り返したため入院しました。残念ながらすでに手遅れの状態で、処置の甲斐なく入院後17日で死亡という痛ましい結果になりました。

 また、「ゲルマニウムが糖尿病に効く」という趣旨の論文を書いた医師も、自分の論を信じてゲルマニウムを服用したところ腎不全となりました。ほかにも、ゲルマニウムサプリの販売元の社員が、ゲルマニウムの中毒で死亡した事故もあります。

 ゲルマニウムは比較的毒性が低い重金属のため、長期的な服用や被曝でない限り毒性が出にくいのですが、それゆえに問題の露見が遅れがちです。現在も不可思議な商品が出回っている原因の一端もそこにあるのです。

 こうした問題が起きても国の腰は重く、ゲルマニウムサプリのメーカーに注意勧告を行っただけで法的に禁止をしなかったため、半世紀近くたって最近再び荒稼ぎに使われだしているのです。

そもそもゲルマニウムとは何か

 ゲルマニウムは、化学の目で見ると周期表の14族で、ガリウムの右にあり、さらにその隣はヒ素です。半導体においてはガリウム、ゲルマニウム、ヒ素は非常に重要な元素で、最近はあまり利用されなくなったもののダイオードや整流器などで用いられました。ほかにも、ハイテク部品やゲルマニウム半導体検出器といった超微量な放射線を計測する機械などにも使われています。

 これらの半導体の研究においても、ガリウム化合物、ヒ素化合物、ゲルマニウム化合物といった化合物は人間に有害なため細心の注意が払われています。素手で触ることはもちろん粉塵を吸い込むことも危険です。

「化合物と金属ゲルマニウムでは性質が違うのではないか」という指摘もあるかと思いますが、ゲルマニウムに関していえば無機ゲルマニウムでも有機ゲルマニウムでも、化合物のほぼすべてに動物実験で有毒性が見つかっています。わりと中立的な見解を述べていることの多い厚生労働省の外郭団体「国立健康・栄養研究所」のHPでも、珍しく「基本的に有害な可能性が高い」と評価しています。

 金属ゲルマニウムもプラセボ(思い込み)効果以外は期待できず、ゲルマニウムローラーで顔をコロコロしても何も御利益はありません。しかし、そもそも美容・健康商品にはゲルマニウムが気休め程度、もしくはまったく含有されていない商品もあるので、毒性を気にする必要はないでしょう。

 ナトリウムやカリウムをはじめ、リンや硫黄、カルシウム、塩素などは必須元素として知られており、ゲルマニウムもカドミウムと同じように超微量必須元素ではないかという研究も昔はありました。しかし、有用性よりも毒性のほうが高い上に、普通に生活しているだけで超微量なゲルマニウムは体内に取り込まれるので、無理して摂取する必要はないのです。

 たとえば、ヒ素は必須元素ですが、食品中から十分に摂取できます。それどころか、ヒ素を取るために亜ヒ酸など食べれば死んでしまいます。

 このように、どこをどう見ても健康に悪い要素だけで利点がないという、珍しいくらいにダメな“健康商材”がゲルマニウムなので、ゲルマニウム商品は買うべきではありません。
(文=へるどくたークラレ/サイエンスライター)

へるどくたークラレ

へるどくたークラレ

覆面の不良科学屋。添加物を駆使した食欲の失せるカラフルな料理やら、露悪的で馬鹿げた実験を紹介していく、『アリエナイ理科ノ教科書』の著者、SFやミステリーの設定やトリックの監修も務める。こっそり大学でも教養課程で科学を教えていたりする。過去の連載をまとめた『薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬』は好評発売中。公演やテレビ出演なども多数。無料のメールマガジンも配信している。

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