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生誕150年・夏目漱石は病気のデパートだった…PTSD、パニック障害、糖尿病、胃潰瘍

文=佐藤博/ジャーナリスト
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生誕150年の夏目漱石は、疱瘡、PTSD、パニック障害、糖尿病、胃潰瘍など病魔と苦闘した49年!の画像1病魔と苦闘した夏目漱石49年の生涯(写真はWikipediaより)

 文豪・夏目漱石のブームが相次いでいる。昨年は没後100年、今年は生誕150年。昨年秋に放送されたNHKドラマ『夏目漱石の妻』(全4話)は第25回橋田賞を受賞し、同じく12月に放送されたNHKドラマ『漱石悶々~夏目漱石最後の恋 京都祇園の二十九日間~』では漱石の片恋を愛嬌たっぷりに活写した。

 漱石の関連イベントも賑やかだ。夏目漱石・記念年実行委員会が主催する「五感で愉しむ漱石――夏目漱石生誕150年記念」が5月21日、鎌倉円覚寺塔頭「帰源院」で開催。漱石の作品をモチーフに独自の解釈・演出で魅せるイッセー尾形の演劇「妄ソーセキ劇場」も7月に練馬文化センターで開幕する。

 さらに、漱石が訪れた土地や小説の舞台など、ゆかりの場所を撮影した写真と自作の俳句でオリジナルの作品をつくる「俳句フォト夏目漱石の旅」も募集されている。

父から厄介者とされPTSD(心的外傷後ストレス障害)に

 1867年(慶応3)年2月9日、夏目漱石(金之助)は江戸牛込馬場下横町(東京都新宿区喜久井町)で父・夏目小兵衛直克、母・千枝の五男(第八子)の間に生まれた。生後間もなく四谷の小道具屋へ里子に出され、2歳の頃に新宿の遊女屋(塩原昌之助)の養子になる。

 3歳の頃、種痘がもとで疱瘡を病み、顔に痘痕(あばた)が残り、「一つ夏目の鬼瓦」と嘲笑される。

 10歳で生家に戻れたものの、父の厄介者扱いも、ネグレクトも耐え抜く。だが、父への怨恨と思慕のジレンマに苛まれ、幼気(あどけ)ない心は揺れに揺れる。その結果、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を終生引きずることになる。

 12歳で回覧雑誌に『正成論』を寄稿、早熟ぶりを見せる。19歳で腹膜炎を患う。20歳の頃、長兄・大助、次兄・栄之助が肺病のため急死、自身も急性トラホームに苦しむ。

心身を蝕む病魔と苦闘した49年――胃潰瘍が奪った文豪の生涯

 22歳、 正岡子規と出会い俳句を学ぶ(俳号は愚陀仏)。子規の『七草集』の批評を書き、漱石の筆名を名乗る。23歳、東京帝国大学(東京大学)英文科入学。卒業後、松山の愛媛県尋常中学校教師、熊本の第五高等学校教授で教鞭を執る。だが、ノイローゼを発症し、パニック障害に陥る。

 27歳、結核を発症し療養に努める。29歳、貴族院書記官長・中根重一の長女・鏡子と見合い結婚。33歳、イギリスのロンドンへ留学するものの、東洋人・英語・背の低さのコンプレックスに悩まされる。

 イギリス留学から帰国後、東京帝国大学で英文学を講じつつ、38歳の時、『吾輩は猫である』を雑誌『ホトトギス』に発表、好評を博す。40歳、朝日新聞社に入社後、諧謔・理知・情愛に満ち満ちた余裕の筆致を奮い、『坊っちゃん』『草枕』『こころ』『三四郎』『それから』『門』『道草』『明暗』を一気呵成に書き上げる。

 だが、43歳の時、胃潰瘍が悪化、入院。伊豆修善寺温泉に転地・療養するが、大吐血、危篤状態に陥る。44歳、朝日新聞社主催の講演会への途上、大阪で胃潰瘍を再発し入院。46歳、ひどいノイローゼと胃潰瘍を再々発。48歳、リウマチ治療のため湯ヶ原天野屋で療養、再起を願う。

 しかし、1916(大正5)年12月9日午後7時頃、胃潰瘍のため49歳で永眠。戒名・文献院古道漱石居士。まさに、「病いは小説より奇なり」。心身を蝕む病魔と苦闘した49年の生涯だった。

漱石最晩年の恋愛模様

 冒頭で紹介した『漱石悶々』では、漱石の最晩年の恋愛模様が描かれた。

 1915(大正4)年の春、重い神経衰弱と胃潰瘍に苦しむ漱石(48歳)は京都で静養する。投宿した木屋町の名旅館・北大嘉(きたのだいか)で出逢った美貌の多佳(36歳)にひと目惚れ。「春の川を隔てて男女哉」と詠みつつ、いつしか療養などは上の空、日々想いを募らせる。

 多佳を焦がれる熱い想いを抑え切れないが、多佳を口説くイケメン実業家や老舗旅館の主人らを尻目にハラハラ・ドキドキと気を揉むばかり……。百戦錬磨の祇園の女に弄ばれても拒めない切ない恋心を悶々と綴った京都の29日間。

 その翌年、漱石は49年の生涯を閉じる。漱石の一途さがジンとくるラブストーリーだ。

 漱石は人生に何を求めたのか。何を見つけたのか。則天去私(天に則り私を去る)の境地に達したのか。漱石は巧みな旅役者ではなかったか。粋狂な風流人ではなかったか--。

 漱石をまた読んでみたくなった。
(文=佐藤博/ジャーナリスト)

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