化学物質過敏症とは、化学物質に体が反応して体調の悪化をもたらす病気である。芳香剤、柔軟剤、化粧品、農薬、塗料、建材など広範囲な製品に使われている化学物質が原因になる。将来的に患者数が花粉症なみに増えるのではないかともいわれている。
米国化学会(ACS)の情報部門であるケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する化学物質の数は、1億件を超えている。そんなおびただしい種類の化学物質のなかでも、化学物質過敏症の因子として特に注視されているのが、ウレタン原料のイソシアネートである。その危険性に警鐘を鳴らしている内田義之医師(東京都練馬区・さんくりにっく)に、化学物質過敏症について伺った。
曖昧な日本の診断基準
――化学物質過敏症の診断基準を教えてください。
内田義之医師(以下、内田) 日本と欧米では、診断基準に大きな差があります。たとえば米国では、慢性疾患で微量の化学物質への曝露にも反応するなど、具体的な6項目(別表参照)を基準に診断しており、アレルギー疾患としてとらえられています。ところが日本の基準は曖昧で、たとえば「倦怠感や疲労感が持続すること」が主症状として定義されていますが、こうした症状は誰にでもありがちなものです。また、「持続する頭痛」も主症状として定義されていますが、化学物質過敏症なのにまったく頭痛がない方もたくさんおられます。
日本の診断基準は、あまりにも心理面を強調し過ぎ、化学物質過敏症という病気を正確にとらえられていないと思います。とはいえ、化学物質過敏症を疑って受診される患者さんのなかには、実はノイローゼや思いこみである人も少なくありません。
私は、日本も米国の診断基準を採用すべきだと考えています。グローバルにデータを比較するという意味でも、日本の診断基準は問題があります。これでは化学物質過敏症の実態を、ほかの国と比較することはできません。ですから専門家が議論して、新たに診断基準を決めるべきでしょう。これは国の役割であると考えます。
――化学物質過敏症の大きな因子になっている化学物質、イソシアネートはどのような製品に使われていますか。
内田 極めて広範囲に使われています。ウレタン材料として知られていますが、身近なところでは、芳香剤、柔軟剤、化粧品、農薬、塗料などです。イソシアネートは種類も多く、しかも増え続けています。