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西澤真生「仕事がデキる人の栄養マネジメント」

「食事を減らしてもやせない」「下痢や便秘が続く」…腸内細菌が異常増殖する「SIBO」では?

文=西澤真生/ひめのともみクリニック 医師
「食事を減らしてもやせない」「下痢や便秘が続く」…腸内細菌が異常増殖する「SIBO」では?の画像1「gettyimages」より

 本連載前回記事腸内細菌についてお伝えしましたが、そのなかで「悪玉菌を減らし、善玉菌を応援しよう」と述べました。しかし、腸内細菌は善玉菌であっても多ければ多いほど良いというものではありません。適切な場所に適切な数が適切なバランスで存在することが大切です。このバランスや数が崩れ、小腸に菌が過剰に増殖し、さまざまな問題を引き起こすことを「Small intestinal bacterial overgrowth syndrome」(小腸内細菌異常増殖症:略称SIBO)と呼びます。

 聞き慣れない呼び名ですが、「言われてみれば、私もSIBOかも」という方もいるかもしれません。腹痛や下痢・便秘が続くのに、検査をしても大腸に炎症が認められない過敏性腸症候群という病気があります。「過敏性腸症候群の方の8割ぐらいがSIBOを併発している」という統計もあります。「食べた後にお腹が張りやすい」「下痢や便秘を繰り返す」「げっぷが多い」「いつもお腹の調子が悪い」「食べているのにやせすぎる」「食事を減らしているのにやせない」という方も、腸内細菌になんらかの問題がある可能性があります。

腸と関係ない部分にも悪影響を及ぼすSIBO

 本来、胃や十二指腸にはほとんど細菌が存在しません。小腸の口側の部分(空腸)では1mlあたり1000個から1万個程度が正常です。大腸には1mlあたり100億個から1兆個の菌がいるため、はるかに少ない量です。小腸にいる菌は小腸の粘膜には密着せず、粘液層で隔てられた場所に生息しています。

「食事を減らしてもやせない」「下痢や便秘が続く」…腸内細菌が異常増殖する「SIBO」では?の画像2「gettyimages」より

 ところが、なんらかの理由で小腸に菌が増殖しすぎると、菌の発酵によって水素ガスやメタンガスが発生し腹部が膨満します。ガスは胃の方向に逆流し、げっぷや胸やけの原因になります。小腸は、栄養成分の消化・吸収を行う場所です。増殖した細菌が大事な栄養成分を消費してしまい、重篤な栄養欠乏になることもあります。

 本来はいないはずの菌が小腸粘膜に侵入すると、腸に炎症が起きます。腸の透過性が亢進し、細菌の毒素や未消化の栄養分が体内に入り込みます。腸の慢性炎症は老化を促進し、脳や内分泌器官である副腎にも悪影響を及ぼします。炎症は腸にとどまらず、頭痛や関節痛、じんましんや湿疹、慢性の疲労感や抑うつなど、腸とはまったく関係ない部分にも症状を出現させます。

SIBOの原因と注意点

 SIBOの原因は、複数あります。小腸の消化管運動の低下、殺菌作用のある胃酸や膵液・胆汁などの分泌低下、抗生物質の使用や細菌感染などによる腸内細菌叢の変化、食事などの要因が複雑にからみ合っています。

 胃酸や膵液・胆汁の減少はSIBOの悪化要因となります。ピロリ菌による慢性萎縮性胃炎は、胃酸や消化酵素の分泌低下の原因となります。ピロリ菌は胃がんのリスクも高めるため、ぜひ検査で感染の有無を確認して、感染していた場合は除菌しましょう。胆のうの摘出術後には胆汁の濃縮ができなくなり、SIBOのリスクが上昇します。腹部の手術によって消化管の動きが悪くなることも、SIBOが悪化する要因となります。

 胃薬を長期的に服用している方は、どんな種類の薬をなんのために飲んでいるのかを確認しましょう。逆流性食道炎や胃潰瘍には、胃酸を抑える薬(制酸剤)が処方されます。胃酸過多や胃酸の逆流による逆流性食道炎の方は制酸剤の服用を継続することが大切ですが、SIBOでもげっぷや胸やけ、胃の症状が多く見られます。胃酸を抑えてしまうと症状が悪化することがあるため、自分が胃酸過多なのか低胃酸なのかを確認することが重要です。

 小腸の消化管運動が低下する要因には、糖尿病による自律神経障害やパーキンソン病、甲状腺機能低下症などがあります。腹部の手術によって狭窄や閉鎖空間ができている場合も、排泄が阻害されて発酵や増殖が起きやすくなります。ストレスや睡眠不足、食事間隔の乱れなども運動低下の要因になります。

 急性胃腸炎が引き金になって起きるSIBOもあります。カンピロバクター菌、サルモネラ菌、病原性大腸菌などの食中毒菌は腸内で毒素を排出します。その毒素に対する免疫反応が間違ってヒトの消化管運動をつかさどる構造を攻撃してしまうことが、一因と考えられています。抗生物質の使用により、腸内細菌バランスが乱れてSIBO発症の引き金になることもあります。

SIBOの診断方法は?

 SIBOの診断は、空腸から吸引した液の細菌数(細菌のコロニーがどれだけ生えるか)を調べる方法や、ラクチュロースなどを服用した後、時間ごとに呼気を採取し水素ガスやメタンガスを測定する方法などがあります。

 SIBOでは、水素ガスやメタンガスが呼気から検出される時間が早まります。呼気中の濃度や水素ガスとメタンガスの割合なども、診断の助けになります。私たちのクリニックでは設備がなく実施していませんが、日本でもSIBOの検査を実施しているところが複数あります。

睡眠不足解消や食事の工夫もSIBOの治療になる

 SIBOが疑われた場合、できる限り原因を取り除くことが大切です。自分でできることもたくさんあります。まず、睡眠不足を解消しダラダラ食べをなくすだけでも、ある程度の効果があります。腸の排泄機能が高まるからです。

 食事の工夫も重要です。小腸や大腸内で増えすぎた菌に餌を与えないようにしましょう。キーワードは「低 FODMAP食」です。「FODMAP」とは「F=Fermentable(発酵性の)」「O=Oligosaccharides(オリゴ糖)」「D=Disaccharides(二糖類)」「M=Monosaccharides(単糖類)」「A=And」「P=Polyols(ポリオール)」のことで、小腸で吸収されにくい発酵性の短鎖炭水化物の頭文字を並べたものです。

 これらは吸収されにくいので腸の管腔内の浸透圧が上がり、水分を腸内に引き込み下痢の原因となります。小腸の細菌は、これらの短鎖炭水化物を餌に水素ガスやメタンガスを発生させます。大腸にも流れ込み、大腸での発酵によるガス膨満、過剰な短鎖脂肪酸の発生による大腸の麻痺を起こします。おなかが張って痛いのに便が出ないという症状は、そのためです。

西澤真生/ひめのともみクリニック 医師

西澤真生/ひめのともみクリニック 医師

東京大学医学部医学科卒業。東京大学附属病院分院4内科入局。
ボストンに3年間滞在後、細胞膜とタンパク質の研究およびクリニック勤務。


ひめのともみクリニック開院時より内科・栄養療法・栄養解析を担当、これまでに全国3000人以上のデータを解析し、オーソモレキュラー医学に基づいた糖質制限や栄養療法の普及に尽力している。


薬に頼らない医療を目指し、予防医療や病気の根本的な解決を目的に日々診療にあたっている。栄養療法を応用し、幅広い知識と豊富な臨床経験に基づいた総合内科的見地からの的確な治療は、患者さんをはじめスタッフからも絶大な信頼を得ている。


糖質制限食を基本とした食事療法による糖尿病・メタボリックシンドロームの治療、機能性低血糖症、男女更年期症候群、副腎疲労症候群、アレルギー疾患、禁煙外来など。


西澤医師の診察予約をご希望の方は、「ひめのともみクリニックHP」をご覧ください。

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