「住宅すごろく」という人生ゲーム
「住宅すごろく」という言葉がある。
上京し、四畳半の古いアパートの一人暮らしから、それは始まる。収入が増えるに従い、賃貸マンションに住み替え、グレードアップしていく。結婚して、夫婦2人用の「愛の住処」として引っ越す。子どもが生まれ、小学校に上がるくらいには3LDKの分譲マンションを購入する。子どもが大きくなるにつれて手狭になるので、郊外の庭付き一戸建てを手に入れ、住宅すごろくは上がりになる。
バブル崩壊前までは、この住宅すごろくは多くの人に当てはまり、「郊外の庭付き一戸建て」は夢として存在した。しかし、広さを求めて郊外へ……という潮流はバブルが崩壊した30年前にすでに終わっている。しかも、「上がり」だと思っていた戸建を持て余す人が増え、鍵ひとつで外出ができるマンションに引っ越すケースが増えている。
人生設計も昔とは明らかに違う。晩婚化は進み、20代で結婚する人は少数派になった。未婚化は、現在30歳の男性の3割、女性は2割が生涯未婚になると厚生労働省は予測している。離婚件数も格段に増えており、新婚早々の「成田離婚」から「熟年離婚」まで、いつ起きてもおかしくない状況にある。そして、平均寿命は90歳に届こうとしているが、定年は60歳のままだ。老後の単身である確率は50%を見込んだほうがいい。
これ以外にも、男女雇用機会均等法で女性の転勤辞令も少なくない。転職回数は増え続け、会社の終身雇用は今は昔だ。転勤、転職、職場の移転、給与の増減、出産による休職、リストラ、早期退職などの要因がある。そして、退職金が出ないのも当たり前になった。年金は若年層になるほどもらえず、支給年齢も後ろ倒しが続いている。
親のアドバイスは聞き流したほうがいい理由
30年でこれだけ状況が変わると、親の世代に常識だった人生設計はもはや参考にならないだけでなく、親のアドバイスは時代錯誤になる可能性が高い。親を見て、「マイホームは結婚して、子どもが生まれてから」などと思っていたら、未婚のまま40歳になっているかもしれず、定年まで20年しかない。やっと家を買ったとしても、離婚・転勤・介護に直面するかもしれない。
だからこそ、いずれ住み替えるタイミングは来るかもしれないと予期しておいたほうがいい。そして、その際に家を売れる状況にしておかないといけない。そのためには、買ってから大きく値下がりするようなことは絶対に避けなければならない。なぜなら、引っ越しできなくなるからだ。離婚したのに、同じ家に住む男女は意外と多い。マイホームが“牢獄”か“地獄”と化している人生は、誰もが避けたいことだろう。
「家は一生もの」という幻想
「終の棲家(ついのすみか)」という言葉がある。そのためか、家を購入すると永住するように思っている人が多いが、都市部ではそうではない。首都圏のマンションでは、10年で約2割が住み替えており、都心部では約3割に及ぶ。30年以上のローンを組もうが、一生住む権利を得ただけで、住み続ける義務を負わされたわけではない。永住はひとつの選択肢にすぎない。
住宅ローンも、実質的には15年ほどで完済されるケースが多い(「フラット35」を運営している住宅金融支援機構調べ)。35年ローンを組んでも、平均15年で売却して住み替えるか、全額繰り上げ返済しているのが実態なのである。離婚して売ったかもしれないし、もっと広い家にステップアップしたかもしれない。いずれにしても、住宅ローンを組んだ際の将来イメージより15年は短い人が多いはずだ。
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