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西島基弘「食品の安全、その本当と嘘」

妊婦、魚介類の摂取には要注意…メチル水銀が胎児の神経系生成に影響の懸念

文=西島基弘/実践女子大学名誉教授
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 水俣病が発症した人は、現在も数々の症状で苦しんでいる事実があります。かつて水俣湾の魚には数十ppmにも及ぶ高濃度の水銀が蓄積していました(水俣病情報センター)。現在は、しゅんせつ工事や埋め立て工事等で元の奇麗な湾に戻ったといわれています。

 しかし、水銀は地球上に比較的多く存在する元素です。環境中の水銀の主要な発生源は、火山の噴火などによる地殻からの噴出ガスや海水面からの蒸発によるものです。石炭の燃焼、ゴミ焼却や工場からの排出なども環境中の水銀量を増加させています。

 無機水銀は、海や湖沼中に生息する微生物の働きでメチル水銀へと変化します。生成したメチル水銀はプランクトンに取り込まれ、プランクトンは小魚などの餌となり、その小魚はさらに小型魚、大型魚あるいはクジラなどの海洋ほ乳類に次々に捕食されます。この食物連鎖の過程でメチル水銀は徐々に生物濃縮され、マグロ類などの大型魚では、水銀含有量が海水中の濃度に比べて約3,000倍高くなると報告されています(注8)。

 そこで厚生労働省は数多くの研究論文に基づき、健康に影響を及ぼさないよう、十分な安全率を見込んだ上で昭和48年に魚介類中に含まれる総水銀量の暫定的規制値を0.4 ppmとし、さらに食品衛生法では検査結果がこの値を超えた場合はメチル水銀についても検査を行い、その値が0.3ppm(水銀として)を超える場合は暫定的規制値を超えた魚介類と判定すると規定しました。

 これを受けて、国や地方公共団体の関連機関は魚介類の総水銀やメチル水銀を調査し、公表しています(注9、10)。東京都では昭和48年4月以降、魚介類等の汚染実態調査を続けています(注11)。暫定的規制値を超えた魚種については、漁獲地を管轄する自治体に情報提供を行うなど、汚染食品の流通防止を図っています。

 魚介類の微量汚染はどうしても起こってしまいます。魚介類は食品として大切なものであることは論を待ちません。しかし、妊婦だけは注意をする必要があります。魚介類には微量のメチル水銀が含まれていても、妊婦以外は気にする必要はありません。その理由は、メチル水銀は胎盤を通過するため、胎児の神経系がつくられる時期には注意する必要があるからです。

 魚介類によっては総水銀量の暫定的規制値を0.4 ppm、メチル水銀0.3ppm(水銀として)の規制値を上回る魚種があります。キンメダイ、メカジキ、マグロ類、キダイなどですが、いずれも高級魚で毎日のようにたくさん食べる人は少ないと思います。しかし妊婦には推奨できる食べる量があります。

 厚生労働省では妊婦が注意すべき魚介類の種類と摂取量の目安として「これからママになるあなたへ・・・お魚について知っておいてほしいこと」というタイトルで、とてもわかりやすい情報を出しています。その他に食品安全委員会や都道府県、政令市等も役立つ情報を発信しています。お知り合いで妊婦がいる方には、ぜひ教えていただきたいと思います。

 いずれの情報も魚介類を含めたバランスの良い食事を推奨しています。バランスの良い食事は簡単なようで難しいことですが、「食事バランスガイド」でキーワード検索すると厚生労働省・農林水産省がわかりやすい情報を発信しています。
(文=西島基弘/実践女子大学名誉教授)

注5)食品からのヒ素の摂取量:農林水産省
注6)水俣病について知っておいてほしいこと
注7)水俣病10の知識-水俣病資料館
注8)くらしの健康(18号)
注9)道衛研所報, 65, 77-78(2015)
注10)道衛研所報 68 ,53-54(2018)
注11)食品衛生の窓

西島基弘/実践女子大学名誉教授

西島基弘/実践女子大学名誉教授

実践女子大学名誉教授。薬学博士。1963年東京薬科大学卒業後、東京都立衛生研究所(現:東京都健康・安全研究センター)に入所。38年間、「食の安全」の最前線で調査・研究を行う。同生活科学部長を経て、実践女子大学教授に。日本食品衛生学会会長、日本食品化学学会会長、厚生労働省薬事・食品衛生審議会添加物部会委員などの公職を歴任。食品添加物や残留農業など、食品における化学物質研究の第一人者として活躍している

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