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東京五輪、都整備の施設、年11億円赤字の“価値”…一大スポーツ拠点構想の全貌

文=深笛義也/ライター
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東京2020オリンピック・パラリンピック メディア向け施設見学ツアー(写真:AFP/アフロ)

 

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場として、東京都が整備するのは、東京アクアティクスセンター、海の森水上競技場、有明アリーナ、カヌー・スラロームセンター、大井ホッケー競技場、夢の島公園アーチェリー場の6施設。

 五輪開催後、これらの施設はどうなっていくのか。東京都オリンピック・パラリンピック準備局の資料によると、コンサートやスポーツエンタテインメント、ファッションショーなどの開催などで、有明アリーナは年間約3億5600万円の収益が見込まれている。だがほかの5施設は合わせて年間約10億8570万円の赤字が見込まれる。

 東京都の予算規模は全体で約14兆円で、スウェーデンやインドネシアの国家予算を超える。そうだとしても、一般市民の感覚からすると約11億円の赤字は巨額である。建築エコノミストの森山高至氏は言う。

「五輪をきっかけに公共施設を整備する。このこと自体はわかるんです。巨額な費用を使うことがすべて悪いわけではなくて、それによってどんな社会的なメリットを出せるのかが問われてくると思います。将来にわたってその施設から、新しく選手が育つということがあればいいんですけど、今、少子化の影響もあって当然のことながらスポーツ選手になる全体の母数が少なくなってきています。どんなスポーツもそうだと思いますが、スポーツにかかわる人が多ければ多いほど優れた選手というのは生まれてきます。だけど、選手候補者が減っているなかで、ただ単に大きな施設をいくつもダブってつくっても、活用しきれるのかどうか心配です。

 ロンドン五輪の場合は、そのメイン会場を中心に、大会後、教育や経済も含めた地域社会の育成、重工業からホスピタリティー産業への転換、環境に配慮した先進的な都市開発が行われました」

民間施設とは異なる役割

 こうした疑問を、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部広報に投げかけたところ、丁寧な回答が返ってきた。整備した施設が大会後に赤字になることを、納税者にはどう説明するのだろうか。

「一般に、市民の皆様に活用されている体育施設は、行政が施設運営費を負担して住民の皆様にスポーツを楽しみ健康を増進する機会を提供しており、多くの場合、自治体が指定管理料としてその費用を負担しています。東京2020大会の会場として整備された新規恒久施設も、有明アリーナを除き、大会後こうした体育施設として運営されます。

 施設運営にかかわる都民の皆様の負担をできるだけ少なくすることはもちろん重要ですが、大会後、多くの都民に末永く利用され、親しまれる施設としていくことがなにより重要です。また、公共的なスポーツ施設として、都民利用やアマチュアスポーツ振興への配慮や、障害者スポーツ振興の場としての利用など、民間施設とは異なる役割も期待されています。

 その上で、施設運営収支の改善に努めていくことも重要であり、創意工夫を凝らした収益向上策の検討が必要です。都としては、各施設へのネーミングライツの導入に向けた検討を進めるとともに、指定管理者と連携し、周辺の施設や公園との一体的な活用や、さまざまなイベントの誘致・開催など、収益確保に向けて取り組んでまいります」

 赤字を避けるための、施設の転用などの計画はあるのだろうか。

「各施設では、競技での利用のほか、指定管理者が施設を活用するためのさまざまな事業を検討し、計画しています。たとえば海の森水上競技場では、ボート、カヌー等の競技大会の誘致・開催に加えて、水上競技の体験教室やウォーキング等のフィットネスプログラムの実施などが計画されています。

 また、指定管理者の自主事業として、アウトドアイベントやスポーツフェスティバルの開催、海の森公園等との連携事業として、野外コンサートの誘致やカヌーとランニングを合わせたカヌーアスロンの実施等も計画されています。今後、これらの事業を具体化し、より多くの都民に利用され収益向上にもつながるよう、指定管理者と連携して取り組んでまいります」

 ロンドン五輪後に見られたような、地域の再開発は考えられているのだろうか。

「東京においては、大会施設が集積する有明北地区を、『有明レガシーエリア』(仮称)として開発し、東京の新しいスポーツ・文化の拠点としていく予定です。大会時には、有明北地区には1万5000人規模のアリーナ施設として、スポーツ大会やコンサート等に活用される『有明アリーナ』や『有明テニスの森』、大会後展示場として活用される『有明体操競技場』、スケートボードやBMX(筆者注・バイシクルモトクロス)の競技会場となる『有明アーバンスポーツパーク』などの施設が集積します。これらの施設を活用し、この地区を、スポーツと文化で賑わうまちとして開発していくことを計画しており、民間事業者の意見などを聞くサウンディング調査などを行っています」

スポーツを中心にした文化エリアが誕生

 東京都オリンピック・パラリンピック準備局が発表している資料によると、「有明レガシーエリア」のほかに、「ウォータースポーツエリア」「マルチスポーツエリア」が計画されている。海の森水上競技場とカヌー・スラローム会場の間の海上に展開される「ウォータースポーツエリア」では、ボート、カヌー、ヨットのほか、ラフティング、ドラゴンボート、SUP(スタンドアップパドルボード)などさまざまな水上スポーツを楽しむことができる。アーチェリー会場が設営される夢の島公園と、アクアティクスセンターが設営される辰巳の森海浜公園は「マルチスポーツエリア」となり、サイクリングコースやバーベキュー会場なども設けられる。

 大井ホッケー競技場の周辺には、水辺を楽しむアクティビティエリアや干潟保全地区が設けられ、自然と親しみながらスポーツを楽しめる。ランニング、ウォーキングコースのほか、ドッグランも設置される。
 
 総じて、大会でアスリートたちが活躍できるとともに、子どもから高齢者までスポーツやイベントを楽しむことができる。バリアフリーへの配慮もなされていて、障害の有無にかかわらず施設の利用が可能だ。再生可能エネルギーを導入するなど、環境への配慮もなされている。

 五輪後に、東京に巨大なスポーツを中心にした文化エリアが誕生するというのは、かなり魅力的だ。赤字を生み続けると「負の遺産」になるとの批判もあるが、そもそも自治体の運営するサービスには、図書館や公園など収益を生み出さないものも多い。価値ある投資になるかどうかは、どれだけ活用されるかにかかっているだろう。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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