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桶谷 功「インサイト思考 ~人の気持ちをひもとくマーケティング」

日産ノートe-POWER、なぜ1位に?「ハイブリッド」と言わず「革新的なEV」浸透に成功

文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

日産ノートe-POWER、なぜ1位に?「ハイブリッド」と言わず「革新的なEV」浸透に成功の画像1

「日産ノート e-POWER」(「日産 HP」より)

 日産ノートは、2016年11月に「e-POWER」搭載車を発売以降、好調な販売を記録し、2018年度登録車販売台数No.1を獲得。2019年1~6月も、2位と好調を維持しています。

 このe-POWERは、なぜ成功したのか? 一歩間違えれば、惨敗する危険性もあったこの技術が、一般消費者の気持ちをどう掴まえたのか、見ていくことにしましょう。

「ハイブリッド」の単なる二番煎じか?

 e-POWERは、技術的な観点からいえばハイブリッドの一種です。ガソリンエンジンを、もっぱら発電用に使い、その電気でモーターを回してクルマを走らせます。つまり、車輪を回すのは電気モーターだけで、エンジンは車輪を回す駆動用にはまったく使いません。しかし、エンジンと電気モーターを使うため、エンジニアもジャーナリストも、クルマの専門家はハイブリッドと位置付けます。ちなみに、トヨタのハイブリッドは、エンジンと電気モーターを切り替えながら両方で走ります。

 しかし、もし、この技術を「ハイブリッドの新しいカタチ」とアピールしていたとしたら、一般の人々はどういう印象を持ったでしょうか。「やっと、日産もハイブリッドを出したのか」という「二番煎じ」の印象を持ち、下手をすれば「技術的に遅れている」と感じた可能性さえあります。これでは、まったく魅力を感じず、買おうという気にはならなかったでしょう。

「電気自動車の新しいカタチ」と位置づけたことが、成功のカギ

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『戦略インサイト――新しい市場を切り拓く最強のマーケティング』(谷功/ダイヤモンド社)

 日産は、この技術を「電気自動車のまったく新しいカタチ」として打ち出しました。ハイブリッドではなく、あくまで電気自動車。そして、この技術にe-POWERという電気自動車を連想させるネーミングを施しました。この呼び名は、電気自動車という位置付けを社内外に浸透させる上で、非常に大きな役割を果たしたと思われます。

 人々の心の中には、電気自動車はハイブリッドより進化した先進的なクルマというイメージがあるため、e-POWERは非常に先進的な技術と感じたことでしょう。実際は、既存の技術を活用したものですが、新たに開発された技術という印象を受けます。

 また、日産は、2010年から電気自動車の量産車として「リーフ」を販売しており、日産が電気自動車で先行しているというイメージを持っている人が多いと思われます。そのため、日産による「電気自動車の新しいカタチ」というアピールに、納得感を持つ人も多いのではないでしょうか。

「ハイブリッドといえばトヨタ」に対して、「電気自動車といえば日産」というイメージを増幅し、強化しているのです。人々がすでに抱いているイメージとうまく結びつけることができれば、技術の革新性や納得感を高めることもできるのです。

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

大日本印刷(株)を経て、世界最大級の広告代理店 J.ウォルター・トンプソン・ジャパン(株)戦略プランニング局 執行役員。ハーゲンダッツのブランド育成などに貢献。2005年、著書「インサイト」(ダイヤモンド社)で日本に初めてインサイトの考え方を体系的に紹介。2010年に独立し、(株)インサイト設立。マーケティング全般のコンサルティングを行う。コンサルティング実績は、食品・飲料・日用品・クルマ・医薬品・百貨店・ファッションEC・C2C・テック系サービスと多岐にわたる。インド・中国などでのインサイト探索・戦略開発や、イノベーション開発、独自メソッドの導入・教育も行う。他の著作に「インサイト実践トレーニング」「戦略インサイト」(ともにダイヤモンド社)など。企業・協会等での講演やセミナー多数。日本広告学会会員。グロービス経営大学院MBA講師。

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