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稲川会が「特殊詐欺への関与厳禁」の通達を出して話題に…本当の目的はなんなのか?

文=沖田臥竜/作家
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特殊詐欺関与を厳禁とした稲川会の通達

 ヤクザ社会では、オレオレ詐欺として始まった特殊詐欺について、どの組織でも関与することを古くから固く禁じてきていた。関与が発覚した組員に対しては、ヤクザ社会のなかでも最も重い処分「絶縁」にすることも珍しいことではない。絶縁とは、その世界からの追放を意味する。つまり、永久にヤクザ社会に復帰することが不可能という意味だ。

 それでも実際には、組員がなんらかの形で特殊詐欺に関与しているケースがある。現に住吉会では、末端の組員が特殊詐欺していたことを理由に、上層部が賠償責任を追及され、何十人もの被害者や被害者団体から民事訴訟を起こされている。現在も係争中であるそれらの訴訟の賠償請求総額は、億単位にものぼる。

 暴力団対策法の施行を受け、暴力団の一次団体トップや傘下組織の組長は、自分たちが顔も見たこともないような末端の組員が特殊詐欺に関与しただけでも使用者責任を追及されるようになった。それだけに、どの組織でも特殊詐欺に関与することを禁じる通達をこれまでに何度も出している。

 そんななか、先日、稲川会ではさらに特殊詐欺に関与すること固く禁じる通達文を出した。そのことを、朝日新聞をはじめとする大手メディアが報じ、話題を呼んでいる。

「通達文は、稲川会の執行部会が終わったあと、内堀和也会長に次ぐポジションである理事長の名前で各直系組織に出されたようだ。その上で、稲川会の会員がこのコロナ問題での苦況を受け、特殊詐欺に手を染めないための措置として、当面の間、会に納める会費を半額にしたのではないかという話だ」(地元関係者)

 今回の通達に触れた報道の多くが、稲川会においても、末端の会員が特殊詐欺に関与したことで上層部が被害者から民事訴訟を起こされ敗訴していることから、そうした責任を回避するために今回の通達文が配られたのではないかと指摘している。確かに今年3月にも、会員による特殊詐欺の責任を問われ、稲川会元会長が約1600万円もの支払いを命じられる判決が東京高裁で下っている。当局は、これらの裁判結果が今回の通達につながっていると見ているようだが、実際は違うだろう。

 冒頭にも書いた通り、使用者責任を法的に追及されようがされまいが、稲川会に限らず、どの組織も特殊詐欺に関与することは、相当前から厳禁事項として打ち出している。それはヤクザとしての真髄である任侠道と、特殊詐欺という行為が対極にあるからだ。

 任侠道とは、お年寄りなどの困っている人や弱者がいれば、無償で手を差し伸べる精神にある。今回の稲川会の通達においても、「一般に犯罪行為が許されないことは当然であるが、特にこの種事犯に及ぶ事はもっての他である。特殊詐欺は、何ら落ち度もなく判断能力が低下している老人等を狙い撃ちにし、個人的な生活資金を騙し取るもので有って、誠に卑劣である」(原文ママ)と断罪している。まさに、弱者や困窮している人から金銭を詐取する輩は、ヤクザの風上にも置けないとしているわけだ。

 だが特殊詐欺は、手を変え品を変えて増加している。ましてや、今はコロナ禍だ。この問題にかこつけて、困窮する人々につけ込む勢力も出てくるだろう。そうした事態を見越した上で、あらためて稲川会では通達文を出し、貧すれば鈍するで、会員が特殊詐欺に手を染めることのないよう、期間限定ながらも会費を半額したのではないだろうか。

 もちろん、当局も指摘する通り、末端の組員が犯した罪ですらトップの責任が追及されるという点も、ヤクザ社会としては看過できないは当然だ。組織のガバナンスを揺るがし、任侠道にももとる卑劣な行為。それが特殊詐欺であり、ヤクザにとっては絶対的な禁忌(タブー)なのである。

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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