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長谷十三「言わぬが花、をあえて言う。」

医療崩壊、日本医師会が招いた人災…医学部・医師数抑制策、民間病院経営者の利益優先

文=長谷十三
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日本医師会館(写真:アフロ)

 今月20日、日本医師会の中川俊男会長が「医療崩壊が日常化し、トリアージせざるをえない」と危機感を示したことに対して、ネットやSNSで「だったら医師会もコロナ患者の受け入れを拒否する民間病院に協力をさせろ」などと厳しい声があがっている。

 多くの専門家が指摘しているように、1億2000万人という先進国で2番目に人口が多く、病床や医療機関の数は世界一というほど溢れかえっている日本の医療が、1000人という先進国で桁違いに少ないコロナ重症患者数で「崩壊」してしまうほど脆弱なのは、日本医師会の会員の大半を占める民間病院の経営者が、要請を受けてもコロナ患者の受け入れを拒否していることが大きい。医療崩壊、医療崩壊とそこまで騒ぐのなら、地域によっては10%しか民間病院が協力しない現状を変える努力もすべきだ、というもっともな指摘である。

 もちろん、設備も人員もない小さな個人経営のクリニックでコロナ患者を受け入れることは難しいだろうが、コロナ治療に対応できるICUなどの治療設備や専門医のいる、それなりの規模の民間病院でも、軽症・中等症患者はおろか、発熱した患者の受け入れさえ拒否するケースも相次いでいるのだ。

 しかし、この会見で中川会長が「中小規模の病院には地域で割り当てられた役割があり、また、ゾーニングの面でコロナ患者の受け入れが難しい」と述べたように、日本医師会としては今のコロナ医療体制を見直すつもりはまったくない。この状況を戦争でたとえるのなら、最前線でバタバタと兵士が倒れて、応援を要請しているのに、「俺たちは後方支援だから」と突き返して、「このままじゃ全滅だぞ」と大騒ぎだけしているような状況なのだ。

 ただ、実は日本の医療崩壊を引き起こしている問題はこれだけではない。根本的なところでいえば、医療従事者が足りていないのである。

 よく日本の医療は充実している、世界一なんだという話になりがちだが、人口1000人あたりの医師数を見ると、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均が3.5人のところ、日本は2.4人しかない。他の先進国より医師1人あたりの負担が非常に重いのだ。これは現場の医療従事者はよくわかっている。

<OECDの統計によれば2016年、日本の医師数は約30万人であるが、人口当たりの医師数をOECD諸国並みにするには、10万人以上も不足している。しかも日本では高齢の医師が働き続けており、勤務医の約10%は、当直を除外しても年間1,920時間以上の時間外労働を行っているという。医師不足は明らかだ>(東京保険医協会ホームページ2019年3月13日)

 つまり、日本のコロナ医療危機というのは、もともと医師が足りなくてブラック労働を強いられていたところに、81%を占める民間病院がコロナ治療に協力をしないことが重なった「人災」的な側面が強いのだ。

誰が医師不足を招いたのか?

 では、なぜこのような深刻な医師不足を招いたのかというと、人材の供給源を絞ってきたからだ。OECDが発表した、医療に関する2019年版の報告書によれば、日本は人口10万人当たりの医学部卒業生数が、比較可能な35カ国のうちで最も少ない6.8人だった。一方、医師に占める55歳以上の割合は37%で平均34%より高くなっている。

 蛇口を閉めるように、若い医師を減らしてきたので、全体的に医師の高齢化が進んでいる。この状況を報告書では「医療提供体制を維持していく上で課題だ」と指摘している。要するに、今回の「医療崩壊」という問題は、遅かれ早かれ起きるはずのもので、その背中を押したのが、たまたまコロナというだけだったのだ。

 さて、そこで気になるのは、なぜ日本の医学部が35カ国中にビリというほど卒業生を出さないのかという点だが、実はこれにも日本医師会が関わっている。

 2017年、千葉県成田市に国際医療福祉大学医学部ができた。首都圏としては43年ぶりの医学部だ。その前年には、東日本大震災の復興という特例で、東北薬科大学に医学部が新設されているが、これは日本全体でも37年ぶりの新設だ。

 なぜ大学はたくさんできていたのに、こんな長い期間、医学部がつくられなかったのかというと、日本医師会が組織をあげて「反対」を表明していたからだ。2015年5月31日の「緊急声明」のなかには、「地域医療の再生をさまたげるおそれがあります」「医学部新設は国際機関から世界一と評される日本の医療を崩壊に導きます」とこれでもかという恐怖訴求が並ぶ。

 ただ、これが間違っていることは、16年と17年に新設した医学部の卒業生がまだ一人前の医師になる前に、コロナ重症患者1000人で医療崩壊したことからも明らかだ。日本の医療崩壊は、医師を増やしたからではなく、若い医師を育てず、高齢医師が経営する医院・クリニックばかりを増やした「医療の偏り」が引き起こしたものだ。

異常な医師数抑制策の目的

 では、なぜ日本医師会はOECDから心配されるほどの異常な医師数抑制策を取ってきたのかというと、会員である民間病院の経営を守るためだ。国民皆保険の日本では、病院を経営するということは、限りある医療費を奪い合う椅子取りゲームのようなものである。最新治療を学んだ若い医師が世の中にどんどん増えれば、競争力のない個人経営の医院やクリニックは当然、経営難に陥ってしまう。そういう病院経営者が大半を占める日本医師会が、新規参入者の数を抑えようと動くのは、極めて合理的な判断だ。

 今、コロナ医療の現場で自分の命を削っている公立病院の勤務医は、そもそも医師会に入会しているのはわずか。日本医師会の令和2年度代議員370人のうち、勤務医はわずか48人(13%)だ。この異常な偏在が、勤務医だけが最前線に追いやられる今のコロナ医療を招いたのは明らかである。

 勤務医よりも病院経営者の利益を優先することで、かねてから医師不足や偏在を放置してきた医師会に、「医療崩壊」の危機を煽る資格はない。

(文=長谷十三)

長谷十三

長谷十三

フリーライター。政治・経済・企業・社会・メディアなど幅広い分野において取材・執筆活動を展開。

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