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兵庫県職員、業務上ミスで300万円を個人弁済…住民が公務員個人を提訴・責任追及の風潮

文・構成=菅谷仁/編集部
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兵庫県公式サイトより

 兵庫県の貯水槽で、排水弁を閉め忘れるミスをした県職員の50代男性が、このミスによって生じた水道代約600万円の半額約300万円を個人弁済したというニュースが注目を集めている。

 産経新聞インターネット版は8日、記事『多額水道代で担当職員が300万円支払い 兵庫県知事「おわびする」』を公開。「県は職員の責任は重いと判断。昨年11月に訓告処分にするとともに、裁判例などをもとに県が半額について職員個人に賠償を請求し、同年内に約300万円を支払った」と報じた。確かに税金の無駄遣いはあってはならないことだが、ミスをした県職員本人がその損害を弁済するという異例の事態に、インターネット上を中心に驚きの声が見られた。

知事「2分の1の損害賠償もしていただくことにいたしました」

 県の発表資料などによると、同ミスは2019年10月、委託業者が神戸市中央区の本庁舎西館の貯水槽の年1回の定期点検の際に水道の閉め忘れがあり、約1カ月間、放置されていた。点検に立ち会った管財担当の職員が「あとは自分が行う」と言って業者を帰し、そのまま水道弁が開いていることに気が付かなったことが原因という。

 井戸敏三兵庫県知事は2月8日、県庁で開かれた定例記事会見で次のように語った。(下記埋め込み動画参照:該当部分は24分45秒くらいから)

「本来であれば業者の方が最後までしっかり見届けて対応すべきだったのを、管財の職員が、最後のチェックを怠ってしまった。

 常時監視しにくいところということもあったので、結果として1カ月、水漏れをふせぐことができなったという行為です。点検度合いがゆるかった、(点検回数が)少なすぎたということもあるので、今後は対応の仕方を気を付けていくことになるとは思います。

 そのような職員ミスが原因で県に大きな損害を与えてしまったことについては、県民の皆様に、率直にお詫びを申し上げなくてはいけないと思っています。当該職員については、懲戒処分を行い、2分の1の損害賠償もしていただくことにいたしました」

 知事の発言で気になるのが、「2分の1の損害賠償もしていただくことにいたしました」との発言だろう。損害額が大きいとはいえ、県管理下の勤務時間内のミスであることに変わりはない。インターネット上では「支払わせるのは筋が違う」「たしかに責任は重いけど個人が罰金みたいに支払うものなの?退職金が減るとかならわかるけど。2重チェックとかこういう事が起こらないようなシステムを作らなかった県庁の問題では」などという疑問の声も散見された。

自治労「懲戒委員会の処分はあっても個人弁済はない」

 自治労兵庫県本部の森哲二書記次長は今回の事件に関し、次のように語る。

「その方は組合員ではないので、ご本人との話はできていません。今回は仕事上のミスなので懲戒委員会の処分はあり得ると思います。けれども、個人弁済はあり得ないと思っています。確かに過去、個人弁済に至った裁判判例はあります。そうした判例は今回のような単純ミスもあるものの、意図的に行った悪質なミスです。

 一般論でいえば、ミスは誰にでもあることです。民間企業では、そのことで発生した被害について個人で弁済するということはあまりないのではないかと思います。

 確かに高額請求がくるまで気が付かなかったのかということはあります。本来であれば、どこかで誰かが気が付かなければいけない話です。しかし、自治体はどんどん人を減らしているので、そういうことをチェックする体制がなくなっていっているのです。

 また役所の制度上、個人弁済といいながらも、職員の支払いは寄付行為になります。そうしないと役所の会計では入れるところがないからです。県は寄付ということであれば拒否しないですよね。

 今回の個人弁済に関しては、職場から『寄付』をするようになんらかの圧力があった可能性も否定できないと思います。結果論として、『本人がどうしても個人弁済を自分の責任でしたいと申し出た』ことにしたのではないでしょうか

 また他の自治体の事例ですが、ミスをした公務員個人に対し、マスコミの方々が『なんでそういうことになったのか』などとメディアスクラムをかけ、その圧力に屈しきれずに個人弁済に至ったケースもあります。

 自宅まで押しかけられたり、家族に迷惑がかかったりするのに耐えられないからです。マスコミの方にお願いしたいのは、個人のミスを追及するよりも、そもそも職場のチェック体制がどうなっていたのか、人員配置が適正だったのかなどもしっかり報じていただきたいです」

 過去、東京電力福島第一原発事故が発生した福島県では、県庁職員が個人線量計を業者に横流しして金銭を得たことが発覚し、個人弁済した事案があった。(参照:記事『福島県職員が線量計盗み転売 所属課の181本375万円相当。パチンコの借金に充当』福島民報、2015年1月29日付朝刊)

 そうした明確な悪意や故意によって生じた損害ならわからなくもないが、今回の件は果たしてどうなのだろうか。また確かに公務員の不祥事は読者の関心も高く、マスコミ各社にとって躍起になって取り上げるネタではある。メディアの報じ方に関しても課題はあるだろう。

組織ではなく、ミスをした公務員個人を訴える事例が増えている

 前出の森書記次長は、さらに公務員を取り巻く昨今の息苦しい風潮について語る。

「単純な例ではないですが、住民の方が自治体当局ではなくてミスを起こした職員個人を訴えるケースも多くあります。

 例えば、ため池の柵が壊れていて、人が転落する事故があったとします。こうした場合、杓子定規に『巡回にいくことが仕事になっているのに、巡回をしていなかった』ことが批判され、訴えられます。しかし、現実はもっと複雑で『巡回に行く余裕のない職場の状況』もあり得るのです。そこを無視して、結果論だけで訴えられてしまう。

 こうした風潮を受け、多くの職員が公務員賠償保険に入っています。病院関係者も多いですね。看護師さんが注射を失敗してしまうケースでも被害者が個人を訴えることが増えているようです。

 ここ5年、10年ですっかり社会がそういう流れになってしまいました。このままでは、多くの公務員が『そんな危険な仕事したくない』と言い出してしまいますよ」

 ミスはあってはならないし、責任の所在も重要だ。だがすべてを個人の責任に帰すだけでは、本質的な問題の解決に至らないこともあるのではないか。
(文・構成=菅谷仁/編集部)

菅谷仁/Business Journal編集部

菅谷仁/Business Journal編集部

 神奈川新聞記者、創出版月刊『創』編集部員、河北新報福島総局・本社報道部東日本大震災取材班記者を経て2019年から現職。

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