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元厚労省キャリア官僚が見た“ブラック霞が関”の本当の問題点…長時間残業&官邸主導の弊害

文=清談社
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厚生労働省本省庁舎(中央合同庁舎第5号館)(「Wikipedia」より)

 過労死ラインとされる月80時間を優に超える残業は当たり前、予測不能な国会対応などでテレワークは一向に進まない……。今、霞が関で働く官僚の多くは過重労働を強いられ、離職者の数は増加の一途をたどっているという。

 そんな中、元キャリア官僚の視点から、霞が関で常態化している過酷な労働の実態や構造的な問題を炙り出した『ブラック霞が関』(新潮社)が話題を集めている。著者の千正康裕氏に、本書に込めた思いや官僚の働き方が変わるために必要なことについてうかがった。

千正さんにもドクターストップが

『ブラック霞が関』というタイトルだけを見ると、官僚の働き方に対するネガティブな記述に大部分が割かれ、霞が関の過酷な労働環境を告発することに主眼が置かれた本だと想像する人も多いだろう。

 しかし、本書は霞が関の労働実態を伝えるルポタージュとしてだけでなく、世間に知られていない官僚という仕事のディテールや魅力が余すところなく描写されており、その仕事の真髄を読み取ることもできる。

 著者は18年半もの間、厚生労働省の職員として数多の法律改正に携わった経験の持ち主だが、どのような経緯で官僚の道に進むことになったのだろうか。

「僕は物心ついた頃から、クラスで起こっている問題は直接自分と関係なくても解決しないといけないと思い込んでいた、俗に言う“ガキ大将”タイプでした。その後も、学級委員長や部活のキャプテンをやるなど常にみんなのことを考えているというのが自然でした。自分のコアな部分とギャップの少ない仕事に就こうと思いました。『利益を気にせず、24時間365日、常にみんなのことを考えて仕事ができる』という点に惹かれて、キャリア官僚を志しました」(千正氏)

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『ブラック霞が関』(新潮社/千正康裕)

 千正氏は2001年に厚労省に入省後、医療、年金、子育て、女性活躍、働き方などさまざまな分野の法改正に従事。月100時間以上の残業が当たり前の環境下でも、楽しく充実した日々を過ごしていたという。

 2019年には「医師の働き方改革」という難しいプロジェクトのマネジメントを任されるが、人員不足などにより、夜中の1時、2時まで仕事をして朝6時台に起きる日々が続き、重要な政策の進行を一身に背負うプレッシャーも相まって、体力は限界を迎えた。

「最終的にはドクターストップがかかり、約3カ月の休養を取ることになりました。それまでは官僚として充実していたし、厚労省のことも大好きでした。周りにもそういう仲間がたくさんいたこともあり、組織の明るい面ばかり見えていました。復帰したときに、多くの同僚が『あなただけがつらいんじゃない』と僕を気遣って言ってくれたのだと思いますが、『実は自分も倒れる寸前だった』『あの部署でも何人も休職者が出た』といった話をしてくれました。このままだと組織として国民の期待に応えられなくなってしまうのではないか、という危機感を持ちました。それから、同じような問題意識を持つ他省庁の仲間ともどんどんつながりました。厚労省だけじゃなくて、霞が関全体の構造問題だということがわかってきました」(同)

官邸主導で官僚の負担が増大

 千正氏が若手官僚だった20年前は組織全体にゆとりがあり、職場にいる時間は長かったが、時間あたりの業務量はそこまで多くなく、先輩たちが若手に目配りする余裕があったという。しかし、現在は求められる政策の検討スピードが上がっており、若手から管理職に至るまで毎日目の回るような忙しさで仕事をしている上、誰かに急に指示されて対応する仕事に追われて、自分発で政策を考える時間が少なくなってきた。

「僕が若手の頃は、いわゆる官僚主導の時代。官僚が政策の中身を考え、各方面の意見の調整も行っていたので、自ら責任を持って無理のないスケジュールを計画的に組むことが可能でした。キャリア官僚の人事異動は毎年7月に行われるのですが、その時点で翌年の1月から始まる通常国会に提出する法案は役所としては決めていて、それに基づいて適切な人事配置を行います。たとえば、年金の法律改正には莫大な仕事量が生じるため、準備段階から十分な人材を投入しておく、という判断を下すわけです。

 ところが、年々、政治主導・官邸主導が強くなり、各省が予定していなかった法案を急に出さないといけないことも増えた。『急ピッチでこれを仕上げろ』という形で、もともと予定していなかった政策の立案や法律の改正をするケースが格段に増えました。それによって、担当省庁は当然忙しくなるのですが、省庁ごとに縦割りで人員が決められているので、急に人は増やせない。結果的に、現場の官僚一人ひとりの負担がどんどん増えています」(同)

 千正氏によると、このような事態は民間の企業と異なる霞が関の組織管理の問題だという。

「民間の組織であれば、『この事業に社運をかけて取り組もう』という意思決定と『必要なマンパワーの配置』がセットで行われるのが当たり前です。新たな顧客のニーズに対応する新事業を立ち上げるとき、それを確実に形にできる体制をつくりますよね。他の部署から特定の部署にスタッフを集めたり、中途採用したり、場合によっては外部コンサルタントや他社と組むこともあります。

 他方で、霞が関では重要な政策決定の権限が各省庁から官邸に移ったにも関わらず、人員の配置は省庁ごとに定員が決まっているため、官邸が主導しなければ、省庁の壁を超えて適切な人材を配置することが難しいのです。これが、いわゆる人員配置の『縦割り』です。重要なプロジェクトの意思決定が官邸に集中する一方で、人員配置の権限をセットで官邸に集中させることができていない。片輪走行の官邸主導が霞が関の現場を疲弊させるのです。

 これは、コロナで忙しくなった厚労省だけではないのです。菅政権の重要政策となった気候変動を担当する環境省も、急に極端な人手不足に陥っています。人手が必要な省庁にスタッフを増やそうとすると、同時に他の省庁の人員を減らす必要があるので、減らされる方は確実に反対します。要は横で話し合っていたら事態は進まず、事業部門の長よりも上の立場の人間が意思決定をしないとまとまらないのですが、現状ではそのような体制が整っていないのです」(同)

後編へ続く

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

『ブラック霞が関』 朝七時、仕事開始。二七時二〇分、退庁。ブラック労働は今や霞が関の標準だ。相次ぐ休職や退職、採用難が官僚たちをさらに追いつめる。国会対応のための不毛な残業、乱立する会議、煩雑な手続き、旧態依然の「紙文化」…この負のスパイラルを止めなければ、最終的に被害を受けるのは国家、国民だ。官僚が本当に能力を発揮できるようにするにはどうすればいいのか。元厚生労働省キャリアが具体策を提言する。 amazon_associate_logo.jpg

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