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木村誠「20年代、大学新時代」

全国で唯一“上場企業ゼロ”の長崎県で起業熱が高まっている理由

文=木村誠/教育ジャーナリスト
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長崎県・五島列島の風景(「Wikipedia」より)
長崎県・五島列島の風景(「Wikipedia」より)

 一般に、地方に拠点を置く東証上場企業は、地元の若者が就職先として希望するケースが多い。地域の経済を支え、雇用の受け皿としても大きな役割を担っている。

 一方で、上場企業が全国で唯一ゼロの県がある。長崎県だ。大学数が多いので高卒者の進学先は県内が比較的多いが、大学を卒業すると県外に就職してしまう、地元就職率が低い県と言える。2021年11月30日に公表された総務省の2020年度調査によれば、総人口の5年前比はマイナス4.7%と、減少率は全国で5位だ。一方、厚生労働省の調査によると、2019年度の出生率は1.66で、全国で3位と高い。出生率が高いのに、なぜ人口が減るのだろうか。

 2017年版の学校基本調査では、長崎県の大学進学による流出者数は九州内の隣県と変わらない。流出率で見ても12%で、隣県の佐賀県22%や宮崎県19%に比べ、むしろ低い。問題は20歳以上の転出者数だ。長崎県は九州内でトップ、全国で3位である。就職を控えた大学3~4年と短大卒以上の若者(20~24歳)、それ以外の年齢層が県外に出ている比率が高い。地元の大学への進学状況は平均クラスであるが、卒業ととともに県外に流出する率が高い傾向にある。

 大学卒業後に地元に就職しないで県外に就職する人数や率が、全国で最上位クラスの長崎県。この県外流出をいかに減らすかが、長崎大学など県内の大学にとっても、卒業生の地元就職を増やす大きな課題となっている。

「大学生の地元就職の意識」(マイナビ・2021年3月調査)では、全国で約6割の学生が地元(Uターン含む)就職を希望している。新型コロナウイルスの影響で就職活動のオンライン化が進み、帰省せずとも地元企業を受けやすくなったことがひとつの要因だろう。さらに、コロナ禍による若者の価値観の変化も無視できない。今こそが地元就職率向上のチャンスと言える。

地元就職率向上へ…長崎県に転機到来

 最近の調査(日経新聞「データで読む地域再生」、国税庁「法人番号公表サイト」より集計)で、長崎県は山口県に続いて新規企業の増加率が全国2位に躍進した。

 江戸時代に外国との唯一の窓口であった出島にならって、スタートアップ交流拠点「CO-DEJIMA」を長崎市に開設した。起業家に加え、創業経験者や地銀など地元の金融マンも交えた異業種交流を行う。長崎大、長崎県立大学などと連携し、IT企業とのAIやロボットなどに関する交流会も開かれた。「起業家大学」では、大学や大学院で起業したベンチャー企業家が講演をしている。

 同所には、食用コオロギを生産・加工する食品会社などが入居している。巣立った企業が起業家のシェアハウスをつくるのだ。起業する人に最大200万円を支給する制度の採択数は2021年度には35件となり、前年度の3倍近くになった。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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