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大学生の無気力感が深刻、コロナと入試改革の混乱に翻弄され絶望…24年卒の不幸

取材・文=文月/A4studio、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト
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「gettyimages」より

 ポストコロナ時代へと移り、大学もオンライン授業から対面授業へと戻るなか、コロナに振り回された大学生たちもようやく授業やサークル活動など学生らしい活動を行えつつあるが、ここにきて多くの大学生を無気力感が襲っているという。なかでも、昨年12月7日にTwitterに投稿された大学教員と思われるユーザーのツイートが8.5万いいねを獲得し、話題になった。

<学生と話していると、家でSNSしてYouTubeみて一日が終わっていくことに『本当にこれでいいのか』と思っているけど、かといって何したらいいのかわかんない、みたいなケースが非常に多い>

 リプライには「自分はまさにそれ」「無限に時間が溶けるけどとくにやりたいこともない」という反応が寄せられ、「時間が流れるのは嫌だけど、かといってやりたいこともないので、ただただ時間を浪費するだけ」という声も見られた。

 なぜ今の大学生はこのような無気力感、絶望感を抱いてしまっているのだろうか。今回は大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に今の大学生の実情について話を聞いた。

「何をやってもダメ」、24年卒への強い懸念

「肌感覚で恐縮ですが、たしかにそうした学生は増えていると思いますね。一部の学生たちからは『どうせ何をやってもダメ』という無気力感が漂っています。当然そういった学生たちは学業のみならず、就職活動に対しても身が入りません。数社のみ選考に参加して、落ちれば自暴自棄になってしまう、というケースが多いです。こうした無気力感を抱く学生、就活生を私は氷河期世代になぞらえて『セルフ氷河期』と呼んでいます。

 こうしたセルフ氷河期の学生は、2000年代以前から少数存在していましたが、当時の大多数は就活を選択していたので、珍しい部類ではありました。ところが2010年代、2020年代に入るにつれてどんどん増えていった印象があります」(石渡氏)

 なぜセルフ氷河期の学生が増加したのか。

「はじめに、2010年から就活市場が買い手市場から売り手市場に変化していったことが要因として挙げられます。就活市場の推移を見ていきましょう。文部科学省公表の『学校基本調査』における卒業者に占める就職者の割合を見てみると、2003年の大学生就職率は55.1%と約半分しか就職できない状況になっています。当時は就職氷河期の真っただなかで、多くの学生が就活を頑張らなくてはまずいと四苦八苦していた時代なんです。

 しかし、その後リーマンショックの影響などにより一時的に低下したものの、緩やかに就職率は上がり続け、21年には74.2%となりました。この数字から察するに、就活に対して危機感を抱く学生が減り、『頑張らなくても何とかなる』と思う層が増えたのだと考えられます。しかも、20年代からはコロナ禍に入り、就活市場は大混乱。対面での説明会の廃止、オンライン面接の導入など従来とは異なるフォーマットを強いられ、やる気を失ってしまう学生が急増しました。結果として、こうした事情によりセルフ氷河期の学生は増加したのだと思われますが、個人的には特に24年卒に強い危機感を抱いています。

 24年卒はコロナ以外にもさまざまな困難があった世代です。彼らが高校1年生だった17年に21年度から共通テストが開始すると公表され、記述式・英語民間試験導入がアナウンスされました。ですので当時の彼らからすると、試験方式が変わるため浪人できないプレッシャーに駆られたわけです。しかし19年には大学入試改革の批判が噴出し、記述式・民間試験は撤回されます。

 また20年に大学に入学してからは、コロナの影響が深刻化し、サークル活動、アルバイトなどは軒並み活動中止、肝心の学業もオンライン授業となりました。大学教員、先輩というタテの関係、同級生のヨコの関係が希薄化し、大学に入学した意味を問うようになる学生が出てくるのは容易に想像できます。大学2、3年生になっていくと、徐々にコロナ禍以前の状態に回復してきましたが、24年卒は大学入試改革とコロナに振り回され、自分が頑張っても世の中に翻弄されるだけと考え、『何をやってもダメ』という無気力感に陥ってしまうのではないでしょうか」(同)

生き方が複雑になりすぎて息苦しさを感じる

 社会情勢に人生を左右された現在の若者に向けて、石渡氏は次のようにアドバイスする。

「昔に比べて、コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスを求める学生が非常に増えたんです。私が長年、取材を続けているとある大学のゼミナールがあるのですが、そちらの大学教員の方が語るに『やたらと答えを求める学生が増えた。例年一定数は存在したものの、コロナ禍以降、特に増加している印象』とのこと。また『前年のゼミ発表の成功事例を表面上マネしているだけで、内容が伴っておらず評価しにくい』という感想も抱いていました。

 この事例から推測するに、うまくいった成功事例があればそれに倣い、楽に成果を出したいと考える割合が高くなったのではないでしょうか。ネットメディア、ブログ、SNSが発達した現在では、研究テーマは入手しやすくなりましたが、同時に検索してヒットする事例や情報も格段に増えました。ですから今の若者はどれを参考にすれば良いのかわからなかったり、調べた内容が複雑でまとめるのが面倒だという理由により、研究のゴールが定まらず、うまくいった先行事例を模倣してしまうのかもしれません。

 しかし、中身がおざなりになってしまい、端から見たら評価しにくくなっている、というワケです。個人的に、今の若者は複数の資料から議論を組み立てるための想像力が下がったという見方もできます。

 働き方や生き方に多様性が生まれたことも関係してくるでしょう。いわゆる、人生のロールモデルがなくなったということです。1990年代までは偏差値の高い大学に入学し、良い企業に就職、結婚して子どもをつくることが一般的な大学卒の幸せのあり方でした。しかし、2000年代以降、大企業で不祥事が起きたり、ベンチャー企業が大当たりして事業拡大したり、オワコン扱いされていた企業が回復したりと、『このルートに入れば安心』というモデルはなくなり、幸せのあり方は画一的なものではなくなりました。そのため学生たちは『どのルートのコスパが良いのか』と“答え”を求めて焦るわけです。

 就活市場は、今や早期に始める学生と遅れて始める学生に分かれる2極化を通り越し、就活のモチベーションが高い層のほうが少ないピラミッド構造になっています。就職情報会社の調査では、インターンシップ参加率は上がっており、就活は活発化していると発表していますが、就活情報サイトに登録する学生はモチベーションが高くて当たり前だと考えられます。そうではないモチベーションの低い学生、セルフ氷河期の学生の実数を考えると、その数は全体の20~30%にも上るのではないかと考えられますね」(同)

 学生を襲う無気力の正体は、変動する社会情勢、コスパ思考など今の若者を取り巻く環境、思考が複雑に入り混じり出来上がったものなのかもしれない。

(取材・文=文月/A4studio、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)

石渡嶺司/大学ジャーナリスト

石渡嶺司/大学ジャーナリスト

編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。

Twitter:@ishiwatarireiji

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