新築マンション価格が上がり続け、平均的な会社員ではなかなか買えなくなっていますが、実際には少なくない人が購入し、多くの物件が好調に売れています。順調に売れていることに加え、資材価格や建築費の高騰などもあって、ますます高くなりそうです。そんななか、いったい、どんな人たちが買っているのでしょうか――。
首都圏新築マンションの平均価格は6000万円台
新築マンション価格が上がり続けています。民間調査機関の不動産経済研究所の調べによると、図表1にあるように首都圏新築マンションの2022年の平均価格は6288万円でした。東京23区だけに限ると8236万円となっています。
頭金が1000万円強あったとしても、首都圏平均では5000万円のローン、東京23区では7000万円のローンが必要になります。最も金利水準の低い変動金利型を利用、金利0.4%、35年元利均等・ボーナス返済なしで住宅ローンを組むとすれば、借入額5000万円の毎月返済額は12万7595円、借入額7000万円だと17万8633円です。
家計管理の安全性を考えて、返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)を25%以下に抑えるためには、借入額5000万円だと612万円、借入額7000万円では857万円の年収が必要になります。年収が500万円未満の人にとっては、新築マンションはまさに高嶺(高値?)の花です。
Microsoft Word – 全国発表資料2022年.docx (fudousankeizai.co.jp)
東京23区で買うには年収1000万円超が必要?
ただ、2023年3月現在、住宅ローン金利上昇気配が強まっており、借入額の金利上昇、返済額増加リスクの大きい変動金利型の利用には不安があります。そこで、借入後に市中の金利が上がっても金利が上がらず、返済額が増えない全期間固定金利型を利用するとすれば、全期間固定金利型の代表格であるフラット35の返済期間35年の2023年3月の金利は1.96%です。そうすると、借入額5000万円で毎月返済額は16万4606円、借入額7000万円で23万449円です。やはり返済負担率を25%以下に抑えるためには、5000万円の借入れには790万円、7000万円の借入れには1106万円の年収が必要です。
しかし、そんな年収がある人がどれくらいいるのでしょうか。図表2のブルーの折れ線グラフはわが国の平均年収の推移を示しています。2021年の平均で443.3万円ですから、とても買えそうにありません。
2022年首都圏新築マンション契約者動向調査 (recruit.co.jp)
夫婦のみ世帯では共働き率が9割近くに
では、どんな人が買っているのかといえば、リクルートSUUMOリサーチセンターの調査によると、首都圏で新築マンションを買った人の世帯総年収は図表2のオレンジの折れ線グラフにあるように、2021年に1000万円を超え、2022年の平均は1034万円でした。平均年収とは随分かけ離れた数値になっています。
かなりの高額所得者でないと買えないように見えますが、必ずしもそうばかりとは限らないようです。実は、新築マンション購入者では、共働き率がたいへん高いのです。一人だけの年収ではなく、夫婦合算の収入で何とか買っているという人たちが多いのではないでしょうか。国勢調査によると、全国平均の共働き率は57.59%ですが、新築マンション契約者の平均は57.4%とさほど変わりませんが、実は、新築契約者の平均はシングル世帯も含んでいるので、既婚世帯だけに限ると共働き率は72.8%に上昇します。首都圏で新築マンションを買った既婚世帯のうち、7割以上が共働きなのです。しかも、既婚で子どものいない夫婦のみ世帯だけの共働き率をみると87.6%と9割近くに達します。図表3にある通りです。
パワーカップルが高額マンションを買っている
ライフステージ別に、購入価格の違いをみると、首都圏新築マンション契約者全体では5890万円ですが、シングル男性5275万円、シングル女性4915万円に対して、夫婦のみ世帯では5928万円で、子どもあり世帯では6222万円、シニアカップルでは6324万円となっています。夫婦のみ世帯で共働きしている世帯のうち、世帯総年収が1000万円を超える、いわゆるパワーカップルでは購入価格が6991万円に跳ね上がります。夫婦ともに勤務しているので、より都心に近い、利便性の高いマンションを求める傾向が強いため、どうしても購入価格が高くなるのではないでしょうか。
それに対して、共働きしている既婚世帯で、年収が1000万円に満たない世帯では平均5056万円と大きな違いがあります。こちらは、共働きといっても、どちらかはパート勤務などで、比較的年収はさほど多くないため、都心やその周辺ではなく、郊外の新築マンションなどを買う傾向が強いのではないでしょうか。
夫婦のみ世帯の自己資金割合は1割程度に
首都圏のなかでも高額物件が多い東京23区などのマンションは、共働きで世帯年収が1000万円を超える世帯が買っているケースが多いとみられますが、その場合、気になるのが自己資金比率の低さです。やはりリクルートの調査によると、首都圏で新築マンションを買った人の自己資金割合は図表4のようになっています。
契約者全体では22.1%と、購入価格の2割強の自己資金を用意して購入しています。なかでも、数は少ないのですが、高齢者中心のシニアカップルでは自己資金割合が68.8%と7割近くに達しており、シングル男性でも28.9%、シングル女性は27.9%と、シングルは3割近くの自己資金を用意しています。それに対して、既婚の子ども世帯あり世帯の自己資金割合は16.1%で、夫婦のみ世帯は10.5%にとどまっています。夫婦のみ世帯では、平均でも1割程度の自己資金ですから、なかには、1割未満で、ほとんど自己資金なしで買っている世帯も多いのではないかとみられます。
ローン延滞から最悪は競売に付されるケースも
自己資金割合が低いとさまざまなリスクがあります。何より、自己資金が少なく、借入額が多くなると、毎月の返済負担が重くなってしまいすし、不動産価格が下落に転じたときの担保割れリスクが高まります。自己資金を2割以上用意していれば、購入後に価格が若干低下しても、簡単には担保割れにはなりません。したがって、返済などが困難になって売却する必要が生じても比較的容易に売却でき、住宅ローン残高を一括返済しても、手元に売却代金の一部が残り、その後の生活の支えとなります。
しかし、自己資金が少なく、担保割れになってしまうと、簡単に売却できません。売却するためには、担保割れ分の自己資金を用意しなければなりませんが、毎月の返済が厳しい段階では、それは難しい話でしょう。そうすると、ローンの延滞から、任意売却、最悪、競売になって、安くしか売れず、住まいを失った上で、住宅ローンの一部だけが残るといった事態も想定されます。
購入計画の先送りも勇気ある決断に
このローン延滞、決してあり得ない話ではありません。金融庁の調査によると、2023年初頭でも、全国の銀行には月間1000件以上の住宅ローンの条件変更の相談が行われています。新型コロナウイルス感染症拡大が始まった当初には、月間数千件に達していましたから、それに比べれば減ってはいるのですが、このところはほとんど横ばいが続き、月によっては前月より増加することもあります。2023年の賃上げは例年以上のレベルにはなりそうですが、それ以上に諸物価の高騰が続いており、家計の負担感がいっそう重くなっています。家計が苦しくなっても、住宅ローンの返済は待ってくれませんから、徹底した家計管理が求められます。
すでに、マンションを買ってしまった人は、節約にこころがけて住宅ローンの返済が発生しないようにしなければなりませんし、これから購入を考えている人は、決して無理をせずに、2割以上の自己資金を用意し、返済に無理がないように返済負担率をできるだけ低くして、より安全・安心の資金計画で買えるようにしていただきたいものです。場合により、いったんは購入を見送り、自己資金や年収が増えるのを待つというのも勇気ある決断かもしれません。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)