マイナンバーカードを活用して消費税の軽減税率分を消費者に還元する財務省案は、すこぶる評判が悪い。同案は欠陥だらけの粗悪品だが、そもそもその目的と方法に大きな矛盾が生じている。特に、流通業の現場、事業者側からの視点で考えるとそれがよくわかる。
無店舗販売は対象外なのか
財務省案は、小売店と飲食店しか想定していない。宅配ピザやそば屋の出前は、読み取り機(スキャナー)を持ち歩くのかという問題もあるが、それ以前にスキャナーを持ち歩くことができない無店舗販売への対応が一切示されていない。
インターネット通販やテレビショッピング、雑誌やカタログ通販などの無店舗販売は、食品の販売が増え続けている。スキャナーを置くことができない無店舗販売で、電話やパソコン、携帯電話からマイナンバーを伝えたり入力させるというのだろうか。
店舗のスキャナーでさえ、マイナンバーを読み取らせない方法を取るという。パソコン等でマイナンバーを入力することは、セキュリティ上問題があることは明らかだ。ネットでマイナンバーをやり取りすることは無謀だろう。
無店舗販売のシステムが含まれていない財務省案は、それだけでも破綻している。検討するに値しない欠陥提案である。
財務省案でも対象品目の線引きはしなければならない
財務省や自民党が、本来の軽減税率制度の難点として挙げているのが、対象品目の線引きの難しさである。筆者は生鮮食品と加工食品の線引きの難しさについて、6月30日付本連載記事でも指摘しているが、財務省案は酒類以外の食品を還付対象とし、非食品を還付対象外としている。店頭で税率が10%で統一されたとしても、結局財務省案でも線引きはしなければならない。
例えば、飲食店の「生ビール1杯とつまみ3品のほろ酔いセット」、小売店の「バレンタインのハンカチとチョコレートのセット」、旅館やホテルの「1泊2食付き」、居酒屋などの「飲み放題&食べ放題」などは、軽減税率の対象か対象外なのか。財務省案でもそういった線引きは必須であり、それを消費者に告知しなければならない。単純な軽減税率を否定する根拠となっている線引きの難しさは、財務省案にも共通している。線引きをなくすという目的を、同案では果たすことができない。
財務省は、店頭での一律10%の税率が事業者の負担を軽減するということで、レジでのマイナンバーカード利用を考えているが、財務省案では事業者の負担は店頭での軽減税率よりはるかに大きくなる。