橋本之克「カモられない!コミュニケーション」

24種類と6種類のジャム試食、多く売れるのはどっち?人はなぜそれを買うのか?


 しかしInterest(関心)や、Desire(欲求)は、「好み」といった個人的嗜好によるものとして片付けられがちだ。個人によって異なり、定量的な測定が難しいものは研究対象になりにくいのである。

 この「選択の心理」について深く研究が行われているのが行動経済学だ。これは経済学と心理学の中間にあり、人間がどのように選択、行動し、その結果どうなるかを究明する学問である。そのなかでは、理屈通りにいかない人間の行動についても解明が進んでいる。

 買う人間の心理を知るためのヒントも行動経済学のなかにはある。

選択と迷いを解明する行動経済学

 「買う」という行動は、いわば選択である。買い手は意識的にせよ無意識にせよ「選択」を行っている。そもそもモノは溢れ、それらを伝える情報量も膨大であるため、実は選択の対象は限りなく多い。店頭を眺め、検索をし、記憶を探りながら、買い手は選択を繰り返す。その選択肢の数を計算すれば膨大な数値になるだろう。そうして最後に、大切なお金を支払って買う商品を決める。

 ではその過程で、買い手の心に何が生まれるのか?

 「迷い」である。当然のことだ。これだけ大量の選択を迫られるのだから。

 では人は、選択に迷うと何をするのか?

 行動経済学が示す知見のなかにヒントがある。「決定麻痺」というものだ。選択に迷ったときの人間の行動を示すものである。人は選択に迷ったときに、行動をしなくなる。選択を放棄するのだ。この場合でいえば、選択肢が多すぎると人は買わなくなる。決めることができずに買えなくなるのである。

ジャム試食の実験

 このことを証明した有名な実験がある。米コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授による「ジャムの実験」と呼ばれるものだ。米サンフランシスコのドレーガーズというスーパーの入り口近くに、有名ブランドのジャムの試食コーナーを設けた。そこでは24種類の試食ができる豊富な品揃えと、6種類に絞った少ない品揃えの2パターンを入れ替えて、試食する人数を測った。

 24種類のときには、通行する来店者の60%が試食に立ち寄った。逆に6種類のときは40%にとどまった。

 さらには、試食者がジャムを実際に購入したかどうかまで調べていくと意外な事実が表れた。24種類の試食コーナーを利用した人のなかで、実際に購入した人は3%にとどまる。しかし、6種類のコーナーで試食をした人のうちの30%が実際にジャムを購入したのだ。

橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー

日本総合研究所を経てアサツーディ・ケイ入社。消費財から金融・不動産・環境エネルギーまで幅広く、マーケティング調査や戦略プランニングを行う。主な著作は『9割の人間は行動経済学のカモである』(経済界)

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