人生後半は病気と共生して生き抜かなければならない。これが現実と理解したほうがいい。治療と管理が必要な病気と共生しなければならない事態になったら、病気治療の職人である医師としっかり付き合うことが肝要である。
これまで3回の連載では、人生後半の健康づくりのメインターゲットはメタボリックシンドロームをはじめとする病気ではなく、高いレベルの生活運営能力である「手段的自立」「知的能動性」「社会的役割」(詳細は本連載の過去記事参照)であることを解説してきた。
このパラダイム(論理展開)は筆者の個人的見解ではなく、国際的な共通認識であることを強調する。
ところが巷は、健康づくりといえば病気を標的にした手立てばかりである。健康状態の総合指標である余命は、糖尿病や高血圧症など生活習慣病の罹患状況の影響を酌量しても、人間の品性の中核能力である知的能動性によって規定されることを前回の本連載で述べた。
この研究結果は、病気の管理や予防は必要ではあるものの、知的能動性をはじめとする高いレベルの生活運営能力を維持することが、人生後半にとって最も大切な健康目標であることを如実に示している。読者の方々は知的能動性の能力を高め、そのレベルを維持して伸ばしてくれる医療機関など聞いたことはないだろう。シニア世代の健康問題を医療技術のみで対処できないのが超高齢社会である。医療技術を進歩させるだけでは、人の健康は守れない時代がきている。
そこで、今回はこの高いレベルの生活運営能力に障害をもたらす真の原因を見つけ出した研究を紹介しよう。
歩行と老化の関係
超高齢社会の健康施策に寄与・貢献する健康科学の研究は、病気のリスクファクター(危険要因)を探索する研究とは趣を異にする。
地域で元気で暮らしているシニアの方々約1000名(平均年齢70歳)を追跡調査して、約3年以内に軽度の要介護認定を受けるかを予測するための項目を探し出した研究である。
ここでいう軽度の要介護認定とは、ひとりで買い物に行ってはみたものの買った荷物を持ち帰れないために、買い物支援サービスが必要というレベルの障害である。介護保険の「要支援」サービスの対象を指す。生活の総合運営能力である手段的自立が障害が出始めている状態で、同時に知的能動性や社会的役割の能力にも障害が生じていることがとても多い。まさに高次の生活運営能力に障害が出始めた段階である。もっとも施設入所などはまったく必要なく自宅で過ごす生活機能は十分ある。