さて、この状態になることを予測していた調査項目は、「2階までの階段の昇り降りができますか」と「1km休まずに歩き続けられますか(20分間続けて歩けますか)」であった。3年以内に要支援の認定になってしまう危険度は、いずれの項目も「できる」と回答した高齢者グループを基準としたとき、どちらか一方できないと回答した高齢者グループでは男性が7.22倍、女性が2.3倍という結果となった。また、両方ができないと回答した高齢者グループでは、男性は6.14倍、女性は3.28倍となった。
ここで重要なのが、この関係は年齢や脳卒中、心臓病、高血圧、あるいは糖尿病など、いわゆるメタボ対策の病気に罹っているかどうかを十分考慮してもまったく変わらないことである。そして、この関係が誤りである確率は1%未満である。
この2つの質問項目には、からだの老化の進行程度が直接、かつ鋭敏に反映されている。このどちらかができなくなることは、老化が許容限界の範囲を超えたことを意味する。
歩行速度は40歳半ばから遅くなり始める。厄介なのが、最大歩行速度から落ち始めるため、若い頃は気づきにくいという点だ。40代になったら、前を歩く若者を余裕をもって歩いて追い越せるか試してみるとよい。50歳ごろから余裕度はなくなってくる。
老化そのものの脅威
このように、超高齢社会の健康目標である高次の生活運営能力の自立性に障害をもたらす最大の原因は、からだの“老化そのもの”である。気になるメタボのみに目を奪われその手立てをただ足し合わせて健康づくりに励んでも、セカンドライフは楽しい時間にはならないことを銘記すべきである。
老化そのものは今のところ医療技術では制御できないが、老化を遅らせる手段はある。
高齢期の健康指標である地域で元気に暮らすための総合力は、罹っている病気とは無関係にからだの老化そのものによって脅かされることがわかる。とかく関心が向かいがちの病気が犯人ではない。歩行能力は地域で元気に暮らすための十分条件であり、加齢に伴い最も速く歩いたときの速度と普通に歩いたときの速度の差はなくなっていく。
老化とは、人を歩いて追い越せなくなるとても厄介な変化なのである。高齢期の健康づくりの目的は、病気の予防ではなく老化を遅らせることにある。では、この老化を遅らせる手立てとはいったいどのようなものなのか。次回は「老化と病気の関係」について解説していく。
(文=熊谷修/人間総合科学大学教授)