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三浦展「繁華街の昔を歩く」

大宮、人気の郊外一大拠点の秘密…醸し出される“昭和の良さ”の正体

文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

鉄道の街、郊外住宅地としての発展

 大宮というと最近はサッカーJリーグの街、あるいはさいたまアリーナのコンサートに来る街というイメージが若い人には強いかもしれない。

 しかし本来、大宮は鉄道の街として長い間知られてきた。明治27年に日本鉄道株式会社(日鉄、後の国鉄、現JR)の直営工場ができたためである。今も鉄道博物館があり人気である。昭和7年には大宮−赤羽間が電化された。東京−横須賀間に次ぐ2番目に早い電化により大宮町は首都圏の一環に組み入れ、住宅地としても人気が出たたという。

 当時、大宮保勝会は小冊子「電化の大宮と其近郊」を作成し、大宮は「天然の風致に富める大公園、綜合運動場、見沼川の蛍狩り、栗拾い、紅葉狩り、キノコ狩り、<中略>雪見等」が楽しめる「四季の楽天地」である。「省線電車(現JR)は上野駅からわずかに三十分。八分ごとに発着し、交通に恵まれた帝都郊外の理想郷」である。「清浄な空気、水質の最も良い、気候、保健衛生等においても好条件の一大住宅地」と大宮の良さをアピールしている(表記は現代風に改めた)。

大宮公園が歓楽街だった!

 大宮駅開設は商工業の発展にも大きく寄与した。旅館、料理店、運送店、馬車発着所などが駅周辺にでき、各種の問屋も増えた。観光客も多く、料亭男、待合、その他の風俗営業もにぎわった。明治43年には大宮三業組合が設立され、全盛期には置屋31軒、芸者85人だった。

 また明治17年の開設の氷川公園(現在の大宮公園)も、当初は旅館、料亭などの業者に貸し出されていた。園内には旅館料亭の他、飲食店、玉突場、大弓場、射的場、パノラマ、産物・盆栽類陳列場、動物園、図書館、博物館、美術館があったそうで、遊興の一流どころとしては遊園地ホテル、割烹旅館の万松楼、八重垣、石州楼、三橋亭などがあり、なかでも万松楼は大規模で有名だった。公園というより料亭街のようだったのだ。

 しかし昭和4年になると、公園内でのこうした営業は廃止された。公園が行楽地から、子どものいる家族のための健康、スポーツのための場所へと整備されたためである。

遊廓は廃止されたが歓楽街が拡大

 また明治31年には、日鉄工場の跡地に遊廓をつくりたいという「遊廓設置御願」が大宮在住の5人の連名で埼玉県知事に提出された。明治以降の埼玉県内にはかねてより、東京の吉原のような行政が認めた公娼の遊廓をつくろうという一派がいたのだ。

 もともと江戸時代の宿場町なので飯盛、宿場女郎などの娼婦がいたが、明治になると公娼廃止運動の影響で、彼女たちは一掃された。ところが明治6年に遊廓は「貸座敷」と名を変えて復活した。だが公娼設置反対勢力が再び強く反対し、結局大宮に公娼の遊廓はできなかった。それでも埼玉県内には大正9年時点で酌婦(私娼)が1005人、「達磨屋」と呼ばれる私娼を置く宿が500軒以上あり、県内170箇所に散在していた。あまり各地にあってはならないというので、県ではこれらを32箇所の指定地に酌婦を収容した。

 大宮にもその指定地があり、昭和33年の売春防止法施行まで存在した。大宮が今も埼玉県内のみならず関東一円の中でも有数の大規模な歓楽街となっているのは、それが一因である。

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昭和9年の地図。大宮駅周辺に、料理店、タクシー、カフェ、芸妓屋など、華やかなモダン文化が花開いていることがわかる。

昭和の雰囲気が残っている

 こうした歓楽街の要素を大宮は今も色濃く残している。特に駅東口の南側、いわゆる南銀座商店街は無数のキャバクラ、スナックが密集している。昭和の雰囲気の小料理屋、大衆食堂、大衆酒場なども多く、サラリーマンの味方である。そんな中でも私が気に入っているのが駅前の酒場「いづみや」と、高島屋裏の「多万里(たまり)」だ。

 特にオススメは「多万里」である。ここの味付け卵は絶品である。甘くねっとりしていて、とっても美味い。1個100円しかしないので、2、3個は食べたい名物である。ラーメン、焼きそばなども、すこし甘めの味付けで、おそらく女性が料理しているのではなかろうか。家庭的なおふくろの味ともいえるもので、くせになる。

 近年若者に昭和喫茶が人気であるが、大宮にはその名も「珈琲専門館」と「伯爵邸」という、やたらに食べ物が充実した昭和喫茶が残っている。特に「伯爵邸」は家族連れ、デートのカップルなどで満員である。

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伯爵邸

「昭和喫茶」の次は「昭和デパート」だ

 高島屋も素敵だ。だが日本橋や新宿の高島屋とはまったく異なる。規模も小さく、きらびやかさはない。まさに昭和の百貨店の様子を残しており、目隠しをしてここに連れて来られれば、どこかの地方都市の地元百貨店だと勘違いするであろう。こののんびりした雰囲気。地元に愛されている感じ。流行の最先端とは無縁の落ち着き。いやあ、いいなあ。なんだかとても懐かしい。

 これからはこういう「昭和百貨店」「昭和デパート」が人気になるに違いないと私は確信する。都心のおしゃれすぎる百貨店やファッションビルも疲れる。買う物もない。かといってユニクロでは洋服が並んでいるだけだ。衣食住、あるいは書店など、ひととおり何でも揃っていて、のんびり歩いて見て回るだけでも、なんとなく楽しい。そういう店が求められる時代がまたきっと来るだろう。

(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)

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三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

82年 一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。
86年 同誌編集長。
90年 三菱総合研究所入社。
99年 「カルチャースタディーズ研究所」設立。
消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。
著書に、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、主著として『第四の消費』『家族と幸福の戦後史』『ファスト風土化する日本』がある。
その他、近著として『データでわかる2030年の日本』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『富裕層の財布』『日本の地価が3分の1になる!』『東京郊外の生存競争が始まった』『中高年シングルが日本を動かす』など多数。
カルチャースタディーズ研究所

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